「労働保険料の通知が届いたけれど、どの勘定科目で処理すればいいの?」
「概算払いや確定精算など、他の経費にはない仕組みがあって複雑すぎる……」
労働保険料(労災保険・雇用保険)の会計処理は、経理初心者にとって最初の大きな壁といえます。なぜなら、「会社が全額払うもの」と「従業員と折半するもの」が混在し、さらに「将来の分を先に払う(概算払い)」という特殊なルールがあるからです。
この記事では、公認会計士の視点から、労働保険料の正しい勘定科目と、年度更新(6月〜7月)の際の実務的な仕訳手順をどこよりもわかりやすく解説します。この記事を読めば、もう労働保険の仕訳で迷うことはなくなり、税務調査でも自信を持って説明できるようになります。
【結論】労働保険料の判定ポイント
- 会社負担分:「法定福利費」で処理する
- 従業員負担分(雇用保険):「預り金」または「立替金」で処理する
- 年度更新時:「前払費用」や「未払金」を使って、概算と確定の差額を調整する
労働保険料の勘定科目は「法定福利費」が基本
労働保険料のうち、会社が負担する分については「法定福利費(ほうていふくりひ)」という勘定科目を使用します。法定福利費とは、法律で義務付けられた社会保険料や労働保険料の会社負担分を指す科目です。
「労災保険」と「雇用保険」で負担割合が異なる
労働保険料を正しく仕訳するためには、まず「誰がいくら負担しているのか」の構造を理解する必要があります。ここを間違えると、経費を過大に計上してしまうリスクがあるため注意しましょう。
| 保険の種類 | 会社負担 | 従業員負担 | 勘定科目(会社側) |
|---|---|---|---|
| 労災保険 | 全額負担 | なし | 法定福利費 |
| 雇用保険 | 一部負担 | 一部負担(天引き) | 法定福利費(会社分) 預り金(本人分) |
労災保険は100%会社が負担するため、支払った全額が「法定福利費」となります。一方、雇用保険は会社と従業員の双方が負担するため、給与から天引きした分は「預り金」として処理し、会社が負担する分だけを「法定福利費」として計上します。
労働保険料の特有のルール「年度更新」と「概算・確定精算」
労働保険料の仕訳が難しい最大の理由は、「年度更新(ねんどこうしん)」という制度にあります。一般的な経費とは異なり、労働保険料は以下のサイクルで支払います。
- 概算払い:その年度に支払う見込みの給与総額から計算した保険料を、先に概算で支払う(6月〜7月)。
- 確定精算:年度が終わった後、実際に支払った給与総額をもとに正確な保険料を計算し、前年払った概算額との差額を調整する。
この「先に払って後から調整する」という流れを帳簿上で再現するために、実務では「前払費用」や「未払金」といった科目も登場します。
【実務例】労働保険料の仕訳パターン3選
それでは、具体的なケーススタディで仕訳を見ていきましょう。ここでは、実務で最も一般的な「預り金」と「法定福利費」を使った処理を紹介します。
1. 7月の年度更新で労働保険料を「概算」で支払ったとき
年度更新の申告書を提出し、概算保険料(1年分)を銀行等で支払った際の仕訳です。全額を一旦「法定福利費」で処理する方法が簡便で一般的です(※決算で調整する場合)。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 100,000 | 現金預金 | 100,000 |
※より厳密に管理する場合は、資産科目である「立替金」や「前払費用」を使うこともありますが、中小企業の実務では支払時に「法定福利費」とする処理が多く見られます。
2. 毎月の給与から「雇用保険料」を天引きしたとき
従業員に給与を支払う際、雇用保険料の本人負担分を控除します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 給与(諸手当含) | 250,000 | 預り金(雇用保険) | 1,500 |
| 預り金(所得税等) | 10,000 | ||
| 現金預金 | 238,500 |
この「預り金」は、会社が従業員に代わって一時的に預かっているお金であり、会社の経費ではありません。
3. 年度更新で「確定精算」を行ったとき(不足分を払う場合)
前年に払った概算保険料が、実際の給与額から計算した確定保険料より少なかった場合、その差額を追加で支払います。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 法定福利費(不足分) | 5,000 | 現金預金 | 105,000 |
| 法定福利費(次年度概算) | 100,000 |
逆に、概算で払いすぎていた場合は「還付(充当)」という処理になります。その場合は、次年度の概算分から差し引いて支払う形になります。
労働保険料の仕訳で間違えやすい4つの注意点
労働保険料の処理には、税務調査で指摘されやすい「落とし穴」がいくつかあります。プロがチェックするポイントを押さえておきましょう。
1. 役員には雇用保険料がかからない
原則として、法人の代表取締役や役員には雇用保険は適用されません。したがって、役員報酬から雇用保険料を天引きしたり、役員報酬を基礎に雇用保険料を計算して経費(法定福利費)に入れることはできません。(※従業員兼務役員の場合を除く)
2. 延滞金や追徴金は「租税公課」
納付期限に遅れてしまった場合の延滞金や、申告漏れによる追徴金などは、勘定科目を「租税公課(そぜいこうか)」として処理します。さらに注意が必要なのは、これらの延滞金・追徴金は税務上「損金不算入(経費にならない)」という点です。無駄な税金を払わないためにも、期限内の納付を徹底しましょう。
3. 消費税は「非課税(不課税)」
労働保険料は公的な支出であり、対価を伴う取引ではないため、消費税はかかりません。会計ソフトに入力する際は、税区分を「対象外(不課税)」に設定するのを忘れないでください。これを「課税」にしてしまうと、消費税を過少に納付することになり、後の税務調査で追徴課税の対象となります。
4. 建設業などの「二元適用事業」は注意
建設業や農林水産業など、労災保険と雇用保険を別々に申告・納付する「二元適用事業」の場合は、それぞれの通知書に基づいて仕訳を分ける必要があります。一般の事務職メインの会社(一元適用事業)とは処理のタイミングが異なる場合があるため、自身の業種を確認しましょう。
労働保険料の仕訳を効率化するコツ
「毎年この時期になると仕訳がわからなくなる……」というストレスを解消するには、以下の2つの方法が有効です。
- クラウド会計ソフトの活用:「Freee」や「マネーフォワード クラウド」などのソフトを使えば、給与計算データと連携して自動で仕訳を作成してくれます。
- 顧問税理士への確認:労働保険の年度更新は年に一度の特殊なイベントです。仕訳を作成した段階でチャットツール等を使って専門家にチェックしてもらうのが、最も確実で安心な方法です。
労働保険料に関するよくある質問(Q&A)
Q:労働保険料を3分割で払っている(延納)場合の仕訳は?
A:各分割払いのタイミングで「法定福利費」または「未払金」を消し込む仕訳を行います。初回支払時に一括で経費計上する方法と、支払う都度計上する方法がありますが、一貫性を持たせることが重要です。
Q:従業員が退職した月の雇用保険料はどうすればいい?
A:退職時の給与からも雇用保険料を天引きします。最後の給与支払時に「預り金」として計上し、次回の年度更新(確定精算)の対象に含めます。
まとめ:労働保険料は「法定福利費」と「年度更新の仕組み」をセットで覚えよう
労働保険料の勘定科目は、会社負担分が「法定福利費」、本人負担分が「預り金」となるのが基本です。年度更新による概算・確定の調整は少し複雑に見えますが、本記事で紹介した仕訳パターンを参考にすれば、正確な帳簿作成が可能です。
もし「自分の会社の計算が合っているか不安」「もっと経理を自動化して楽になりたい」と感じているなら、この機会にクラウド会計への切り替えや、プロへの相談を検討してみてはいかがでしょうか。
正確な会計処理は、会社を守る第一歩です。正しい知識を身につけ、健全な経営を目指しましょう。
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