「給与から引いた額と銀行引落の額が合わない」「社会保険料は全部『法定福利費』で処理していいの?」「決算月の未払計上ってどうやるの?」
毎月発生する社会保険料の仕訳は、処理が2段階になることと「会社負担分・本人負担分の折半」という構造を理解していないと、帳簿の残高が合わなくなったり、費用が二重計上になったりするトラブルが起きやすい科目です。
この記事では、社会保険料(健康保険・厚生年金)の仕訳を給与計算時→納付時→決算対応の順に完全解説します。freeeと弥生の処理方法の比較、よくある間違いも含めて整理しました。
この記事でわかること
- 社会保険料の勘定科目(法定福利費・預り金)のしくみ
- 給与支払時(天引き)と納付時の2段階仕訳
- 会社負担分・従業員負担分(折半)の正確な区分け
- 2026年時点の健保・厚年の保険料率(折半率)
- 決算月の未払計上処理
- 住民税・所得税との違い
- 退職者が出たときの精算処理
- freeeと弥生の操作手順比較
- よくある間違い(預り金を費用計上してしまうパターン)
社会保険料の基本的な仕組み
社会保険とは何か
「社会保険料」とは、主に健康保険料と厚生年金保険料の2つを指します。広義では雇用保険・労災保険(労働保険)を含む場合もありますが、会計処理では通常、年金事務所(日本年金機構)に一括納付する以下の2つを指します。
| 保険の種類 | 管轄機関 | 特徴 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合 | 医療費の給付 |
| 厚生年金保険 | 日本年金機構 | 老齢・障害・遺族給付 |
さらに、厚生年金に付随して「子ども・子育て拠出金」も一緒に徴収されます(全額事業主負担)。
折半の原則
社会保険料は原則として会社と従業員が折半(半分ずつ負担)します。
- 従業員負担分:給与から天引き(源泉控除)
- 会社負担分:会社が費用として負担(法定福利費)
納付の際は、年金事務所・健保組合に「従業員分 + 会社分」の合計額を一括して支払います。
2026年時点の保険料率(参考値)
以下は2026年時点の協会けんぽ・厚生年金の標準的な保険料率です。(都道府県により健康保険料率は異なります)
協会けんぽ 健康保険料率(東京都・2026年3月時点)
| 区分 | 保険料率(全体) | 折半後(労使各) |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 9.98% | 4.99% |
| 介護保険料(40〜64歳) | 1.60% | 0.80% |
厚生年金保険料率(2026年3月時点)
| 区分 | 保険料率(全体) | 折半後(労使各) |
|---|---|---|
| 厚生年金保険料 | 18.30% | 9.15% |
※子ども・子育て拠出金(2026年3月時点:0.36%)は全額事業主負担のため、従業員給与からは控除しません。
保険料率は毎年見直されることがあります。実際の給与計算には年金事務所から届く「保険料額表」または各都道府県の協会けんぽの最新料率を参照してください。
社会保険料の仕訳:2段階処理の全体像
社会保険料の仕訳は「給与支払時」と「保険料納付時」の2段階で処理します。
[1月25日:給与支払日]
給与(借方)→ 従業員に支払う額(貸方)+ 社保本人分を預り金(貸方)
[2月末:保険料納付日(翌月末引落)]
預り金(本人分・借方)+ 法定福利費(会社分・借方)→ 普通預金(貸方)
この2段階構造を理解することが、社会保険料の仕訳マスターへの近道です。
ステップ1:給与支払時の仕訳
基本パターン(月額給与25万円、社保本人負担3万円の例)
給与日に「額面から社会保険料を天引きして手取り支給」する際の仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 給与 | 250,000 | 普通預金 | 183,000 | 1月分給与支給 |
| 預り金 | 30,000 | 社会保険料(本人分) | ||
| 預り金 | 25,000 | 源泉所得税 | ||
| 預り金 | 12,000 | 住民税 |
「預り金」は、従業員から預かって後で税務署・年金事務所に納める一時的な負債です。本人負担の社会保険料を「法定福利費(費用)」に計上してしまう誤りが多いので注意してください。
補助科目で管理する
「預り金」には複数の種類(社保・所得税・住民税など)が混在するため、補助科目(サブ科目)で管理すると残高確認が楽になります。
| 科目 | 補助科目 | 用途 |
|---|---|---|
| 預り金 | 社会保険料 | 健保・厚年の本人負担分 |
| 預り金 | 源泉所得税 | 給与・報酬からの源泉徴収 |
| 預り金 | 住民税 | 特別徴収分 |
ステップ2:保険料納付時の仕訳
基本パターン(翌月末引落・合計6万円の例)
社会保険料は翌月末に前月分が引き落とされるのが原則です(例:1月分保険料は2月末に引落)。
1月に天引きした従業員負担分3万円と、会社負担分3万円の合計6万円が2月末に引き落とされた場合:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金 | 30,000 | 普通預金 | 60,000 | 1月分社会保険料 納付 |
| 法定福利費 | 30,000 |
「預り金」を消し込む(減らす)ことがポイントです。給与から天引きして預かっていたお金を、ここで年金事務所に送る処理です。
子ども・子育て拠出金が含まれる場合(実務的な金額の例)
実際には「健保・厚年の折半分」に加えて「子ども・子育て拠出金(全額会社負担)」が含まれます。
例:1月分の引落明細
- 健康保険料(従業員分):14,970円
- 厚生年金保険料(従業員分):27,450円
- 子ども・子育て拠出金:1,080円(全額会社負担)
- 健康保険料(会社分):14,970円
- 厚生年金保険料(会社分):27,450円
- 合計引落額:85,920円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金 | 42,420 | 普通預金 | 85,920 | 1月分社会保険料 納付 |
| 法定福利費 | 43,500 |
※預り金42,420円=健保14,970円+厚年27,450円(従業員負担合計) ※法定福利費43,500円=健保14,970円+厚年27,450円+拠出金1,080円(会社負担合計)
個人事業主の社会保険料の取り扱い
個人事業主は社会保険ではなく国民健康保険・国民年金
個人事業主(フリーランス含む)は、会社員と異なり「健康保険・厚生年金」(社会保険)に加入できません。代わりに「国民健康保険・国民年金」に加入します。
これらの保険料は給与天引きではなく、事業主本人が直接支払います。仕訳の考え方も法人とは異なります。
個人事業主の国民健康保険料・国民年金の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 20,000 | 普通預金 | 20,000 | 国民健康保険料 納付 |
または
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 16,520 | 現金 | 16,520 | 国民年金 ○月分 |
個人事業主の国民健康保険・国民年金は「事業の経費(法定福利費)」ではなく、「事業主が個人として支払う費用」です。そのため「事業主貸」(事業の資金を個人的な用途に使った際の科目)で処理します。
ただし、所得税の確定申告では「社会保険料控除」として所得から控除できます(帳簿上の経費計上とは別の税制上の取り扱い)。
個人事業主が従業員を雇用している場合
個人事業主でも従業員を常時5人以上雇用している場合(一部業種は異なる)は、社会保険への強制加入が必要です。この場合は法人と同様に「法定福利費・預り金」で処理します。
月末未払計上の処理(発生主義・決算対応)
なぜ未払計上が必要か
会計の原則(発生主義)では、費用は「発生した期間」に計上します。社会保険料は「当月分を翌月末に納付」する仕組みのため、12月分の保険料を翌年1月末に支払う場合、その12月分は「当期(12月期)の費用」として計上すべきです。
中小企業の実務では、支払ベース(現金主義)で処理しているケースも多いですが、月次決算を重視する法人や、税務上の有利不利を意識する場合は発生主義で処理します。
月末未払計上の仕訳(例:12月決算の会社)
12月31日(決算日):会社負担分を未払計上する
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 43,500 | 未払費用 | 43,500 | 12月分社会保険料(会社負担)未払計上 |
翌年1月末(翌期・納付日):未払費用を取り崩しながら納付
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金 | 42,420 | 普通預金 | 85,920 | 12月分社会保険料 納付 |
| 未払費用 | 43,500 |
従業員負担分(預り金)の未払計上は不要
月末時点で「給与から天引き済みの預り金」はすでに帳簿に計上されています。未払計上が必要なのは「まだ経費計上していない会社負担分」だけです。
社会保険料と住民税・所得税の違い
「預り金」として処理するものが複数あるため、まとめて確認しましょう。
| 項目 | 勘定科目 | 会社負担分 | 納付先 | 納付タイミング |
|---|---|---|---|---|
| 社会保険料(健保・厚年)本人分 | 預り金 | あり(折半) | 年金事務所 | 翌月末 |
| 雇用保険料 本人分 | 預り金 | あり(会社多め) | 都道府県労働局 | 年度更新で精算 |
| 源泉所得税 | 預り金 | なし | 税務署 | 翌月10日(納期特例あり) |
| 住民税(特別徴収) | 預り金 | なし | 市区町村 | 翌月10日 |
社会保険料の特徴は「会社も同額(またはそれ以上)を負担する」点です。住民税・所得税は従業員負担のみで会社負担はありません。
退職者が出たときの精算処理
退職月の社会保険料のルール
社会保険料は「月末時点に在籍している月まで」徴収されます。月途中に退職した場合のルールを整理します。
- 月末日に退職した場合:退職月分の社会保険料が発生 → 最後の給与から通常どおり天引き
- 月の途中(月末日以外)に退職した場合:退職月分の社会保険料は発生しない → 最後の給与からは前月分のみ天引き
例:3月15日退職の場合、最後の給与(3月分)から天引きするのは「2月分の社会保険料」のみです。3月分は課税されません。
給与が少なく社保を引ききれない場合
最終月の給与が少なく、社会保険料の天引き額が足りない場合があります。例えば最終給与が10,000円しかないのに社保が30,000円の場合。
対応方法は主に2つです。
方法1:退職者に追加徴収する
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 現金 | 20,000 | 預り金 | 20,000 | 退職者 社保追加徴収 |
方法2:会社が立て替えて費用計上する
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 20,000 | 普通預金 | 20,000 | 退職者 社保会社立替 |
よくある間違い
間違い1:本人負担分を「法定福利費」で計上してしまう
最も多い間違いです。社会保険料の引落時に全額を「法定福利費」として処理してしまうと、従業員から預かっていた「預り金」が残ったままになり、貸借対照表の預り金残高が膨らんでいきます。
誤った仕訳(NG例)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 60,000 | 普通預金 | 60,000 | 社会保険料 ← これはNG |
正しい仕訳(OK例)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金 | 30,000 | 普通預金 | 60,000 | 社会保険料 納付 |
| 法定福利費 | 30,000 |
間違い2:子ども・子育て拠出金を「2等分」してしまう
引落額を単純に2で割って「折半」として処理すると、子ども・子育て拠出金(全額会社負担)が会社負担分に含まれないため、計算がずれます。年金事務所からの「保険料納入告知額・領収済通知書」を必ず確認して、「従業員負担分の合計」と「会社負担分(拠出金含む)の合計」を正確に把握しましょう。
間違い3:翌月末の引落を「当月」の経費として処理してしまう
1月分社会保険料の引落が2月末の場合、2月に「1月分(先月分)の費用」が発生します。これを「2月の費用」として処理している場合、1か月のズレが生じています。月次決算では正確な期間対応が必要なため注意が必要です。
間違い4:個人事業主が国民健康保険・国民年金を「法定福利費」に計上してしまう
個人事業主自身の国民健康保険・国民年金は「法定福利費」ではなく「事業主貸」です。法定福利費は「従業員のために会社が負担する保険料」に使う科目であり、個人事業主自身の保険料とは区別が必要です。
freeeでの社会保険料の処理方法
freeeでの給与仕訳入力
freeeには「給与計算機能(freee人事労務)」があり、給与・保険料の計算から仕訳まで自動連携できます。
freee人事労務を使っていない場合(手動入力)
- 「取引の追加」→「支出」を選択
- 勘定科目:「給与」
- 複数行入力で「預り金(社保)」「預り金(所得税)」「預り金(住民税)」を入力
- 消費税区分:「対象外」
保険料納付時の入力
- 「取引の追加」→「支出」を選択
- 複数行入力で「預り金 30,000」「法定福利費 30,000」
- 貸方:「普通預金 60,000」
- 消費税区分:いずれも「対象外」
弥生会計での社会保険料の処理方法
弥生会計(デスクトップ版・弥生会計 オンライン)での処理手順も確認します。
弥生会計 オンラインでの給与仕訳
- 「取引の登録」→「振替伝票」を選択
- 借方に「給与250,000」を入力
- 貸方に「普通預金183,000」「預り金30,000(補助:社保)」「預り金25,000(補助:所得税)」「預り金12,000(補助:住民税)」を入力
保険料納付時の仕訳(弥生)
- 「取引の登録」→「出金伝票」または「振替伝票」を選択
- 借方:「預り金30,000(補助:社保)」「法定福利費30,000」
- 貸方:「普通預金60,000」
freeeと弥生の主な違い比較
| 機能 | freee | 弥生 |
|---|---|---|
| 給与計算との連携 | freee人事労務と完全連携 | 弥生給与との連携あり |
| 仕訳の自動生成 | 人事労務連携で自動 | 給与ソフトからインポート |
| 補助科目の設定 | 「メモタグ」で管理 | 補助科目(サブ科目)で管理 |
| スマホ対応 | アプリ対応 | オンライン版はアプリ対応 |
| 月次決算 | 期間単位での集計が得意 | 月次集計・比較が得意 |
どちらのソフトでも、社会保険料の仕訳の「考え方」は同じです。給与天引き時に「預り金」を計上し、納付時に消し込む流れを守れば問題ありません。
社会保険料の会計処理フローチャート
毎月の処理の流れを整理します。
[毎月の処理フロー]
給与計算日(給与日前)
↓
① 給与支払時の仕訳
借方:給与 / 貸方:普通預金 + 預り金(社保)+ 預り金(所得税)+ 預り金(住民税)
翌月末(社会保険料引落日)
↓
② 保険料納付時の仕訳
借方:預り金(社保本人分)+ 法定福利費(会社分)/ 貸方:普通預金
翌月10日(源泉所得税・住民税納付)
↓
③ 税金納付の仕訳
借方:預り金(所得税)+ 預り金(住民税)/ 貸方:普通預金
[決算時の追加処理]
決算日
↓
④ 会社負担分を未払計上(発生主義の場合)
借方:法定福利費 / 貸方:未払費用
まとめ
社会保険料の仕訳の要点をまとめます。
使う勘定科目
| 科目 | 用途 |
|---|---|
| 給与 | 従業員への給与(額面) |
| 預り金 | 給与から天引きした本人負担の社保・税金 |
| 法定福利費 | 会社が負担する社会保険料 |
| 未払費用 | 月末未払計上時(会社負担分のみ) |
2段階仕訳の基本形
【給与支払時】
- 借方:給与(額面全額)
- 貸方:普通預金(手取り額) + 預り金(本人負担社保)+ 預り金(所得税)+ 預り金(住民税)
【納付時(翌月末引落)】
- 借方:預り金(本人負担分)+ 法定福利費(会社負担分)
- 貸方:普通預金(引落総額)
絶対に間違えてはいけないポイント
- 本人負担分は「法定福利費」ではなく「預り金」に計上する
- 引落額を2等分しない(子ども・子育て拠出金は全額会社負担)
- 個人事業主自身の国保・国民年金は「事業主貸」
よくある質問
Q1. 社会保険料の消費税区分は何ですか?
社会保険料は「対象外(不課税)」です。賃金・保険料などの法定の支払いは消費税の課税対象外となります。会計ソフトに入力する際は「対象外」または「不課税」を選択します。
Q2. 役員(社長)一人だけの会社でも社会保険料の処理は同じですか?
基本的に同じです。役員の場合は「給与」ではなく「役員報酬」を使います。借方:役員報酬 / 貸方:普通預金 + 預り金(社保)という形になります。会社負担分の法定福利費は同様に計上します。
Q3. 従業員が入社・退職して保険料の月ズレが生じた場合はどうしますか?
月ズレが生じた場合は、引落明細(保険料納入告知書)の金額と帳簿の預り金残高を照合します。ズレが生じている場合は法定福利費の調整(増減)で吸収するのが実務上のスタンダードな対処法です。
Q4. 健康保険組合に加入している場合、処理方法は変わりますか?
基本的な仕訳の流れは同じです。協会けんぽではなく健保組合に納付する点と、保険料率が組合ごとに異なる点が違います。勘定科目(預り金・法定福利費)は変わりません。
Q5. 産前産後・育児休業中の社会保険料免除を受けた場合の仕訳は?
育児休業中は申出により社会保険料(本人・会社両方)が免除される制度があります。免除期間中は、給与の控除も行わず(預り金の計上なし)、会社負担分の法定福利費も計上しません。給与支払いがある場合は給与のみ計上します。
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※本記事の内容は一般的な会計処理の解説です。個別の判断は税理士等専門家にご相談ください。
