この記事でわかること
- 貸倒引当金は資産を減らす「評価勘定」で、繰入は費用・戻入は収益という科目の役割の違い
- 資本金1億円以下の中小企業が使える「法定繰入率」での簡便計算と、業種別の率
- 「一括評価」と「個別評価」の違いと、どちらを選ぶかの判断軸
- 決算で迷いやすい洗替法の仕訳(戻入→繰入の2段階)と数値の入れ方
- 取引先が実際に倒産したとき、引当金を取り崩す処理の具体例
公的情報源: 国税庁「貸倒引当金」タックスアンサーNo.5500(参照)/国税庁「中小企業等の貸倒引当金の特例」(参照)
結論を先に書きます
貸倒引当金とは、売掛金や受取手形のうち将来回収できないと見込まれる金額を、あらかじめ当期の費用として計上しておく仕組みです。まだ損は確定していないものの、回収不能リスクに先回りして備える処理です。
ポイントは、勘定科目の「役割」を分けて理解すること。貸倒引当金は資産を減らす評価勘定、繰入は費用、戻入は収益です。この3つの位置づけさえ押さえれば、決算仕訳の流れは一本道になります。
- 貸倒引当金=資産のマイナス(評価勘定)。決算書では売掛金のすぐ下にマイナス表示される
- 計上時は「貸倒引当金繰入(費用)」、戻すときは「貸倒引当金戻入(収益)」を使う
- 資本金1億円以下の中小企業(青色申告)は法定繰入率で簡便に計算できる
- 処理は前期分を一度ゼロに戻す洗替法が一般的。戻入→繰入の2段階で考える
貸倒引当金とは|「評価勘定」という特殊な立ち位置
貸倒引当金は、ほかの勘定科目とは少し毛色が違います。結論から言うと、プラスの資産ではなく、資産の金額を減らすための科目です。
貸借対照表(B/S)では「資産の部」に記載されますが、売掛金や受取手形の残高から差し引く形で表示されます。この「資産を控除する役割を持つ科目」を評価勘定と呼びます。
たとえば売掛金が1,000万円あり、そのうち10万円が回収不能と見込まれるなら、B/S上は売掛金1,000万円の下に貸倒引当金△10万円が並び、実質的な回収見込み額は990万円と読めるようになります。これが「将来の損を見える化する」という、この科目の本質です。
貸倒引当金で使う勘定科目は3つ
実務で使う科目は、立場によって3つに分かれます。混同しやすいので、役割(資産・費用・収益)とセットで覚えるのが近道です。
| 勘定科目 | 区分 | 役割 |
|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 資産のマイナス(評価勘定) | 決算書で売掛金のすぐ下にマイナス表示される残高 |
| 貸倒引当金繰入 | 費用(販売費及び一般管理費) | 引当金を計上するときの「経費」。今期の利益を減らす |
| 貸倒引当金戻入 | 収益(営業外収益) | 前期の引当金を戻すときの「収益」。今期の利益を増やす |
繰入は費用なので当期の利益を圧縮し、戻入は収益なので当期の利益を押し上げます。後述する洗替法では、この2つが毎期セットで登場します。
なお、似た名前の「貸倒損失」は、実際に回収不能が確定したときに使う費用科目です。「これから備える=引当金」「もう損が確定した=貸倒損失」と、時間軸で区別すると整理できます。
中小企業向け|法定繰入率による簡便計算
引当金をいくら計上するかは本来むずかしい見積もりですが、資本金1億円以下の中小企業(青色申告)であれば、国が定めた一定率を使う「法定繰入率(ほうていくりいれりつ)」での計算が認められています。
計算式はシンプルです。
貸倒引当金 = 期末の売掛金等 × 法定繰入率
法定繰入率は業種ごとに決まっています。主なものは次のとおりです。
| 業種 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店業を含む) | 1.0%(10/1000) |
| 製造業 | 0.8%(8/1000) |
| 金融業・保険業 | 0.3%(3/1000) |
| 割賦販売小売業など | 0.7%(7/1000) |
| その他の事業(建設業・サービス業など) | 0.6%(6/1000) |
建設業やサービス業は「その他の事業」に区分され、法定繰入率は0.6%です。自社がどの業種に当たるかは、実際の事業内容で判定します。正確な率は国税庁「中小企業等の貸倒引当金の特例」で確認できます。
この方法は、債権全体にまとめて率をかける「一括評価」と呼ばれます。一方で、特定の取引先について個別に回収が危ぶまれる場合は、別途「個別評価」を行います。
一括評価と個別評価の違い・選び方
法定繰入率を使う方法(一括評価)と、危ない取引先だけを名指しで見積もる方法(個別評価)。この2つは併用できます。判断軸を表で整理します。
| 観点 | 一括評価 | 個別評価 |
|---|---|---|
| 対象 | 売掛金・受取手形などの債権全体 | 倒産・更生手続など特定の事由がある取引先 |
| 計算方法 | 期末債権 × 法定繰入率(中小企業の特例) | 取り立て不能見込額を個別に算定 |
| 向いているケース | 特に危ない先はないが、全体に薄く備えたい | 特定の取引先の回収が現実に危ぶまれている |
実務では、まず一括評価で全体に備えつつ、危険な取引先が出たら個別評価を追加するのが基本の流れです。個別評価には「会社更生手続の開始申立て」など一定の形式基準があるため、該当しそうなときは早めに国税庁の要件を確認しておくと安心です。
決算時の仕訳例|洗替法(戻入→繰入の2段階)
貸倒引当金の処理は、前期末に立てた引当金をいったんゼロに戻してから、今期分を新たに計上し直す「洗替法(あらいがえほう)」が一般的です。2段階に分けて考えるのがコツです。
ここでは「前期の引当金が10万円あり、今期末の計算で12万円を計上したい」ケースで見ていきます。
手順1:前期の引当金を戻し入れる
まず前期分の10万円を全額取り崩し、収益(戻入)として戻します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 100,000 | 貸倒引当金戻入 | 100,000 |
摘要は「前期分戻入」。貸倒引当金戻入は営業外収益なので、この時点では当期の利益が10万円ぶん増える形になります。
手順2:今期分の引当金を繰り入れる
次に、今期末の見積もり12万円を新たに費用として計上します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 120,000 | 貸倒引当金 | 120,000 |
摘要は「今期分計上」。戻入10万円・繰入12万円なので、損益への純額は差額の2万円の費用増。洗替法でも、結局は「増えた差額ぶんだけ費用が増える」と理解しておくと迷いません。
なお、会計ソフトによっては差額だけを計上する「差額補充法」を選ぶこともできます。どちらの方法を採るかは、毎期継続して適用するのが原則です。
実際に倒産したとき|引当金を取り崩す処理
取引先が実際に倒産し、売掛金が回収不能になった場合は、原則として「貸倒損失」で処理します。ただし、すでに引当金を立てている場合は、その引当金を取り崩して充てます。
ここでは「売掛金5万円が回収不能になり、引当金は十分にある」ケースで見ていきます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
摘要は「〇〇社倒産による回収不能」。すでに費用化していた引当金を充てるため、この期に新たな費用は発生しません。引当金が不足する場合は、不足分を「貸倒損失」として追加で計上します。
このように引当金をあらかじめ立てておくと、実際に倒産が起きた期に利益が急減するのを防げます。引当金は、損失のショックをやわらげるクッションの役割を果たします。
よくある質問
貸倒引当金について、経理初心者の方から特に多い質問を整理しました。
Q1:貸倒引当金は必ず計上しないといけませんか?
中小企業の任意です。法人税法上は資本金1億円以下の中小企業(青色申告)に認められた特例であり、計上するかどうかは会社の判断に委ねられます。ただし、売掛金残高が大きい会社では、節税と正確な決算書づくりの両面で計上するメリットが大きくなります。
Q2:貸倒引当金繰入と貸倒損失はどう違うのですか?
時間軸が違います。貸倒引当金繰入は「これから回収不能になりそう」という見積もり段階で使う費用、貸倒損失は「回収不能が確定した」段階で使う費用です。引当金を立てている債権が実際に焦げ付いたときは、まず引当金を取り崩し、足りない分だけ貸倒損失を計上します。
Q3:法定繰入率は何で決まりますか?
業種で決まります。卸売・小売業1.0%、製造業0.8%、金融・保険業0.3%、その他の事業(建設業・サービス業など)0.6%が主な区分です。自社の主たる事業内容で判定し、正確な率は国税庁タックスアンサーで確認してください。
Q4:洗替法と差額補充法、どちらを選べばいいですか?
どちらでも構いませんが、毎期継続して同じ方法を適用するのが原則です。多くの会計ソフトでは洗替法(前期分を戻入→今期分を繰入)が標準です。最終的な引当金残高は同じになるため、自社の運用や顧問税理士の方針に合わせて選びます。
まとめ
貸倒引当金は、「将来の損」を今のうちに見積もっておく、リスク管理のための経理処理です。最後に要点を整理します。
- 貸倒引当金は資産を減らす評価勘定。売掛金等の回収不能リスクに備える
- 計上は「繰入(費用)」、前期分の戻しは「戻入(収益)」で処理する
- 資本金1億円以下の中小企業は法定繰入率で簡便に計算できる
- 決算は前期分を戻して今期分を立て直す洗替法が一般的
- 実際に倒産したら、引当金を取り崩して処理する
特に売掛金の残高が大きい会社ほど、貸倒引当金の設定は節税対策としても、正確な決算書づくりとしても重要です。毎年の決算で、必ず見直すようにしましょう。
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免責事項
※本記事は会計・税務の一般的な情報を整理したものです。法定繰入率や特例の適用要件は事業内容・年度により異なる場合があるため、個別の判断は国税庁の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて税理士など有資格者へご相談ください。
