事業主貸・事業主借とは?仕訳例と期末の元入金振替をわかりやすく解説【2026年版】

事業主貸は「事業のお金を私用に使ったとき」、事業主借は「私的なお金で事業の支払いを立て替えたとき」に使う科目です。どちらも売上や経費ではなく損益に影響せず、期末に残高を元入金へ振り替えて(洗替)リセットします。仕訳例と数値例で整理します。

この記事でわかること

  • 事業主貸=事業→個人、事業主借=個人→事業のお金の流れで覚える
  • どちらも費用でも収益でもなく、損益に影響しない精算科目
  • 生活費の引き出し・所得税/住民税の支払い・家事按分の具体的な仕訳例
  • 私費立替・預金利息・元手投入の事業主借の仕訳例
  • 期末に元入金へ振り替える洗替の数値例と、翌期元入金の計算式
  • 法人の役員貸付金・役員借入金とは別物である理由

公的情報源: 国税庁 青色申告決算書の書き方(貸借対照表)国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度

結論を先に書きます

事業主貸と事業主借は、個人事業主の「事業のお金」と「自分のお金」を区別するための科目です。判定はお金の流れだけで決まります。

事業のお金を私用に回したら「事業主貸」、自分のお金で事業の支払いをしたら「事業主借」。この一点さえ押さえれば、迷う場面のほとんどは処理できます。

どちらも売上や経費ではないため、利益(所得)を1円も動かしません。期中はただ積み上がるだけで、期末に残高を元入金へ振り替えてゼロに戻すのが決まりごとです。この「洗替」を知らないと、翌期の帳簿が合わなくなります。

この記事の要点
  • お金の向きで判定:事業→個人=事業主貸/個人→事業=事業主借
  • 両科目とも損益に影響しない(経費にも売上にもならない)
  • 期末に元入金へ振替てリセット、翌期首残高はゼロ
  • 翌期の元入金=前期元入金+事業主借−事業主貸+当期の所得
  • 法人の役員貸付金・役員借入金とはまったくの別物

目次

事業主貸・事業主借とは?お金の流れで覚える2つの科目

まず結論です。事業主貸・事業主借は、個人事業主が事業とプライベートのお金の出入りを記録するための勘定科目です。個人事業では事業のお金と生活のお金が地続きになりがちなので、この2科目でその境目を帳簿に残します。

法人と違い、個人事業主は「事業の財布」と「自分の財布」が最終的には同じ人格に属します。だからこそ、どちらの財布からどちらへお金が動いたかを、科目名で明示する必要があります。

科目お金の流れ使う場面のイメージ貸借対照表の区分
事業主貸事業 → 個人事業の口座から生活費を引き出した資産の部
事業主借個人 → 事業自分の財布で事業の経費を立て替えた負債の部

どちらも青色申告決算書の貸借対照表に記載する科目です。名前の「貸」「借」が直感と逆に感じられて混乱しやすいので、必ず「お金の向き」で覚えるのがコツです。

事業主貸=事業のお金を私用に(事業→個人)

事業主貸は、事業のお金を事業以外(プライベート)に使ったときに登場します。事業が事業主個人に「貸している」イメージです。

たとえば、事業用の銀行口座から生活費を引き出す、事業用のクレジットカードで私用の買い物をする、事業の口座から所得税や国民年金を払う。これらはすべて事業主貸で処理します。事業から外へ出ていったお金、と考えると分かりやすいです。

事業主借=私的なお金を事業に(個人→事業)

事業主借は逆で、プライベートのお金を事業のために使ったときに使います。事業が事業主個人から「借りている」イメージです。

事業用の現金が足りず自分の財布で経費を立て替えた、開業資金を個人の預金から入金した、事業用口座に付いた預金利息を受け取った。こうした「外から事業へ入ってきたお金」が事業主借になります。

損益に影響しない|費用でも収益でもない「精算」科目

ここが最重要ポイントです。事業主貸も事業主借も、費用でも収益でもないため、利益(所得)にはいっさい影響しません。生活費を事業主貸で処理しても経費として引けるわけではなく、預金利息を事業主借で受けても事業の売上にはなりません。

なぜなら、これらは「事業の儲け」ではなく「事業主個人とのお金の精算」だからです。所得税は事業の経費にならないので、事業の口座から払っても事業主貸に振り分けて損益から外します。逆に、事業用口座の預金利息は「利子所得」として扱う別枠の所得なので、事業の売上に混ぜず事業主借で受けます。

  1. 事業主貸・事業主借は損益計算書に出てこない(貸借対照表の科目)
  2. 経費にできない私的支出の受け皿が事業主貸
  3. 事業の売上にしない個人からの入金の受け皿が事業主借

迷ったときの判断は「これは事業の儲け・費用か?」の一問だけ。事業の損益に関係しないお金の動きは、すべて事業主貸か事業主借に振り分けると覚えておけば、雑多な私用の出入りで悩まなくなります。

事業主貸の仕訳例|生活費・所得税/住民税・家事按分

事業主貸を使う代表的な3場面を、仕訳で確認します。いずれも借方(左)が事業主貸です。

生活費を事業用口座から引き出したとき

事業用の普通預金から、生活費として20万円を引き出したケースです。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
事業主貸200,000普通預金200,000

生活費は経費ではないので、事業主貸で損益の外に出します。プライベートの支出を「福利厚生費」などにしてしまうミスが多いので注意が必要です。

所得税・住民税・国民年金を事業用口座から払ったとき

所得税や住民税、国民年金・国民健康保険は、そもそも事業の経費になりません。事業用口座から払った場合は事業主貸で処理します。所得税の予定納税15万円を納めた例です。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
事業主貸150,000普通預金150,000

所得税や住民税そのものの科目の考え方は、所得税・住民税の勘定科目と仕訳の解説で詳しく整理しています。経費にならない税金を経費に混ぜると所得が過少になり、税務調査で必ず指摘されます。

家事按分で私用分を差し引くとき

自宅兼事務所の家賃や電気代を事業用口座から全額払い、あとで私用分(家事分)を事業主貸に振り替えるパターンです。家賃10万円のうち事業割合60%・私用40%とした例です。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
地代家賃100,000普通預金100,000
事業主貸40,000地代家賃40,000

いったん全額を地代家賃で計上し、私用分4万円を事業主貸へ振り替えて経費から外します。この家事按分の割合の決め方・按分できる費目は、家事按分の仕訳と按分割合の考え方で具体的に解説しています。

事業主借の仕訳例|私費立替・預金利息・元手投入

続いて事業主借です。こちらは貸方(右)に事業主借が来ます。「外から事業へお金が入ってきた」と考えてください。

自分の財布で経費を立て替えたとき

事業用の現金が手元になく、プライベートの財布から消耗品5,000円を買ったケースです。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
消耗品費5,000事業主借5,000

経費(消耗品費)はきちんと計上しつつ、その支払い元が個人の財布なので相手科目を事業主借にします。立替経費を計上し忘れると、正当な経費を取りこぼすので、レシートは事業のものと分けて保管しておくと安全です。

事業用口座に預金利息が付いたとき

事業用の普通預金に利息100円(源泉徴収控除後の入金額)が付いたケースです。預金利息は事業の売上ではなく利子所得なので、事業の収益に混ぜません。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
普通預金100事業主借100

預金利息を「受取利息」として事業の収益に入れてしまうと、事業所得が過大になります。個人事業では事業主借で受けるのが原則です。

開業資金・運転資金を個人から入れたとき

年の途中で運転資金が不足し、個人の預金から事業用口座へ30万円を入金したケースです。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
普通預金300,000事業主借300,000

開業時の元手は「元入金」で処理しますが、期の途中で追加投入した資金は事業主借で受けるのが実務上の扱いです。期末にまとめて元入金へ振り替わります。

期末の元入金振替|数値例で洗替をマスター

事業主貸・事業主借は期中に積み上がるだけの科目で、期末に残高を元入金へ振り替えてゼロに戻します。これを「洗替(あらいがえ)」と呼びます。多くの会計ソフトは決算処理で自動的に振り替えますが、仕組みを理解しておくと翌期の帳簿が合わない原因をすぐ突き止められます。

翌期首の元入金は、次の式で決まります。

翌期の元入金の計算式

翌期の元入金 = 前期の元入金 + 事業主借 − 事業主貸 + 当期の所得(利益)

具体的な数値で見てみます。前期末の元入金100万円、当期の事業主借の残高50万円、事業主貸の残高200万円、当期の所得(青色申告特別控除前)300万円のケースです。

項目金額(円)
前期の元入金1,000,000
+ 事業主借(当期残高)500,000
− 事業主貸(当期残高)2,000,000
+ 当期の所得3,000,000
= 翌期の元入金2,500,000

この計算のとおり、翌期首の元入金は250万円になります。振替の仕訳は、まず事業主貸と事業主借を相殺し、差額を元入金で調整するのが分かりやすい形です。事業主借50万円・事業主貸200万円を元入金へ振り替える例です。

借方科目金額(円)貸方科目金額(円)
事業主借500,000事業主貸2,000,000
元入金1,500,000

さらに当期の所得(利益)が元入金に加算されることで、上表の250万円に着地します。翌期の帳簿を開いたとき、事業主貸・事業主借の期首残高が必ずゼロになっていることを確認してください。ゼロでなければ前期の振替漏れです。

  1. 期中は事業主貸・事業主借を積み上げるだけ
  2. 期末に両科目を相殺し、差額を元入金へ振替
  3. 当期の所得を元入金に加算し、翌期首残高が確定

個人事業主と法人の違い|役員貸付金・役員借入金とは別物

「事業主貸=役員貸付金、事業主借=役員借入金」と誤解されがちですが、両者はまったくの別物です。法人は会社と役員(社長)が別人格なので、会社が社長に貸したお金は「役員貸付金」という資産、社長から借りたお金は「役員借入金」という負債になり、原則として利息のやり取りや返済が発生します。

一方、個人事業主は事業と事業主が同一人格です。返済も利息も発生せず、期末に元入金へ吸収されて消えます。この違いを混同すると、法人成り(法人化)したときに処理を誤ります。

項目個人事業主法人
事業→自分へのお金事業主貸役員貸付金
自分→事業へのお金事業主借役員借入金
返済・利息なし原則あり(認定利息等)
期末の扱い元入金へ振替てリセット残高として繰り越し
損益への影響なし利息部分は影響あり

法人では役員貸付金が多額になると金融機関の融資審査でマイナスに見られることもあります。個人事業の事業主貸にはそうした評価はありませんが、生活費の引き出しが利益を大きく超えると元入金がマイナスになり、資金繰りの危険信号になります。

事業主貸・事業主借を使う場面の早見表|迷ったらここを見る

最後に、日常で迷いやすい取引を一覧にまとめます。判断軸は「事業の損益に関係するか」「お金はどちら向きか」の2つだけです。

取引別・どちらを使うか早見表

取引使う科目損益への影響
事業用口座から生活費を引き出した事業主貸なし
事業用カードで私用の買い物をした事業主貸なし
所得税・住民税・国民年金を事業口座から払った事業主貸なし
家賃・光熱費の私用分(家事按分)事業主貸なし
自分の財布で事業の経費を立て替えた事業主借経費分のみあり
事業用口座の預金利息を受け取った事業主借なし
期中に個人資金を事業へ入金した事業主借なし
個人のカードで事業の備品を買った事業主借経費分のみあり

「事業の儲け・費用ではない、事業主個人とのお金のやり取り」はすべてこの2科目に振り分ける、と覚えておけば実務で迷いません。会計ソフト(freee・マネーフォワード・弥生)でも、これらは「事業主貸」「事業主借」の勘定を選ぶだけで自動的に貸借対照表へ集計されます。

よくある質問

事業主貸・事業主借について、現場で頻出する質問を整理します。

Q1:事業主貸と事業主借、名前がまぎらわしくて逆に覚えてしまいます

「貸」「借」の字ではなく、お金の向きで覚えるのがおすすめです。事業から自分へ出ていくお金が「事業主貸」(事業が貸す)、自分から事業へ入るお金が「事業主借」(事業が借りる)。主語を「事業」に固定すると混乱しません。生活費の引き出しは事業主貸、私費での立替は事業主借、と代表例をセットで覚えると定着します。

Q2:事業主貸を使うと経費が増えて節税になりますか?

なりません。事業主貸は費用(経費)ではなく、損益にいっさい影響しない精算科目です。生活費や私的支出を事業主貸で処理しても、所得は1円も減りません。むしろ、経費にできない私的支出を経費科目に紛れ込ませると過少申告になり、税務調査で指摘されます。私的な支出は正しく事業主貸へ振り分けてください。

Q3:期末に元入金へ振り替える処理を忘れるとどうなりますか?

翌期首の事業主貸・事業主借の残高がゼロにならず、前期分と当期分が混ざって帳簿が合わなくなります。多くの会計ソフトは決算・繰越処理で自動的に元入金へ振り替えますが、手入力で帳簿を作っている場合は振替仕訳が必要です。翌期の帳簿を開いたときに両科目の期首残高がゼロかどうかを必ず確認しましょう。

Q4:元入金がマイナスになってしまいました。問題ありますか?

元入金のマイナスは、生活費などの引き出し(事業主貸)が事業の利益と元手を上回っている状態を示します。会計処理としては誤りではありませんが、事業の元手を食いつぶしている資金繰りの危険信号です。生活費の引き出しを見直すか、事業主借で個人資金を補填するなどの対応を検討し、判断に迷う場合は顧問税理士に相談してください。

Q5:法人成りしたら事業主貸・事業主借はどうなりますか?

法人には事業主貸・事業主借の科目はありません。会社と役員は別人格なので、会社→役員は「役員貸付金」、役員→会社は「役員借入金」で処理し、返済や認定利息が問題になります。個人事業を廃業して法人化する際は、個人の事業主貸・事業主借の残高を元入金と合わせて整理し、法人へ引き継ぐ資産・負債を仕分けます。処理を誤りやすい場面なので、法人成りの際は税理士の確認をおすすめします。

まとめ|事業主貸・事業主借は「お金の向き」で判定する

事業主貸・事業主借の判定は、お金の向きと損益への無関係さを押さえれば難しくありません。

この記事のまとめ
  • 事業主貸=事業→個人(生活費・私的な税金・家事按分の私用分)
  • 事業主借=個人→事業(私費立替・預金利息・資金投入)
  • どちらも費用でも収益でもなく、所得に影響しない精算科目
  • 期末に両科目を相殺し、差額を元入金へ振替てリセット
  • 翌期の元入金=前期元入金+事業主借−事業主貸+当期の所得
  • 法人の役員貸付金・役員借入金とは別物(返済・利息なし)

日々の記帳では「事業の儲け・費用に関係しないお金の出入りは、すべて事業主貸か事業主借」とルール化しておくと、私用の出入りで手が止まらなくなります。期末の元入金振替まで含めて一連の流れとして理解しておけば、翌期の帳簿もきれいに繋がります。

免責事項

※本記事は公的情報をもとに整理した一般的な情報であり、個別の会計処理・税務判断を保証するものではありません。家事按分の割合・元入金のマイナス対応・法人成り時の資産負債の引継ぎなど、個別事情がある場面では、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。

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この記事を書いた人

会計事務所で10年以上、法人や個人事業主の帳簿づけと税務申告の手伝いをしてきたTanakaです。決算が近づくと、経営者から「この支払いはどの科目で処理すればいいですか」という電話を何度も受けました。答えは業種や会社の規模で変わります。そこを一つずつ、相手に合わせて説明してきました。

独立してからは、中小企業の経理担当者向けの研修や、freee・マネーフォワード・弥生の科目設定の相談にも応じています。教科書の説明は抽象的で、現場では「とりあえず雑費」で片づけてしまうことも少なくありません。このサイトでは、勘定科目の選び方の判断軸を、具体例をそえて整理しています。最終的な税務判断は、顧問税理士にご相談ください。

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