この記事でわかること
- 労働保険料の勘定科目は会社負担分=法定福利費、従業員負担分=預り金の2つで処理する
- 年度更新(概算払い)・毎月の給与天引き・確定精算の仕訳3パターンをそのまま使える形で掲載
- 延滞金は租税公課で損金不算入、消費税区分は対象外(不課税)など間違えやすい4点
- 役員に雇用保険が適用されない理由、建設業の二元適用事業の扱い
公的情報源: 厚生労働省「労働保険の年度更新」(参照)
結論を先に書きます
労働保険料の勘定科目は、会社負担分が法定福利費、従業員が給与天引きで負担する雇用保険分が預り金です。労災保険は全額会社負担なので、迷う余地なく法定福利費で処理します。
仕訳が複雑に感じられるのは、勘定科目が難しいからではありません。年度更新による「概算払い→翌年に確定精算」という独特のサイクルがあるためです。このサイクルさえ押さえれば、あとは3つの仕訳パターンの使い回しで足ります。
- 会社負担分は法定福利費、雇用保険の従業員負担分(給与天引き)は預り金
- 毎年6〜7月に概算で前払い→翌年に確定精算するのが労働保険料の独特なサイクル
- 延滞金は租税公課かつ損金不算入、消費税は対象外(不課税)に注意
労働保険料は誰がどれだけ負担するか
最初に押さえるべきは、保険の種類によって負担者と勘定科目が変わるという点です。
労災保険は全額が会社負担、雇用保険は会社と従業員で分け合います。会社負担分はまとめて法定福利費、従業員から預かった分だけを預り金で管理する——この役割分担が仕訳の土台です。
| 保険の種類 | 会社負担 | 従業員負担 | 会社の勘定科目 |
|---|---|---|---|
| 労災保険 | 全額 | なし | 法定福利費 |
| 雇用保険 | 一部(約2/3) | 一部(約1/3) | 法定福利費(会社分)・預り金(従業員分) |
- 労災保険は100%会社負担。全額そのまま法定福利費で計上する
- 雇用保険は給与から従業員分を天引きし、納付までの間を預り金で管理する
労働保険料の仕訳パターン3選
実務で使う仕訳は、つまるところ次の3場面に集約されます。それぞれ具体的な金額を入れた仕訳例で確認します。
- 年度更新で概算保険料を支払う(7月)
- 毎月の給与から雇用保険料を天引きする
- 確定精算で不足分を追加納付する
パターン1:年度更新で概算保険料を支払う(7月)
労働保険料は、その年度の見込み額をまず概算で前払いします。支払時は会社負担分なので、全額を法定福利費で計上します。
仕訳例:概算保険料100,000円を銀行振込で支払った
| 借方 | 金額 | 摘要 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 100,000 | 労働保険料概算 | 普通預金 | 100,000 |
パターン2:毎月の給与から雇用保険料を天引きする
雇用保険の従業員負担分は、毎月の給与計算で天引きします。預かっただけで会社の費用ではないため、勘定科目は預り金です。源泉所得税と同じ「いったん預かって後で納める」発想で処理します。
仕訳例:給与250,000円・雇用保険1,500円・源泉所得税10,000円を天引き
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 給与手当 | 250,000 | 預り金(雇用保険) | 1,500 |
| 預り金(源泉所得税) | 10,000 | ||
| 普通預金 | 238,500 |
パターン3:確定精算で不足分を追加納付する
翌年度の年度更新では、前年度の確定保険料と概算払い額の差額を精算します。不足していれば追加納付、払いすぎていれば次年度に充当します。多くの場合、確定精算分と次年度の概算分をまとめて1回で納付します。
仕訳例:確定精算5,000円不足・次年度概算100,000円を合わせて105,000円を支払った
| 借方 | 金額 | 摘要 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 法定福利費 | 5,000 | 前年度確定精算 | 普通預金 | 105,000 |
| 法定福利費 | 100,000 | 次年度概算保険料 |
確定精算と次年度概算の合算納付は、年度更新でいちばんつまずきやすいところ。摘要欄で「確定精算分」と「次年度概算分」を分けて書いておくと、後から見返したときに迷いません。
労働保険料の年度更新スケジュール
仕訳パターンが頭に入ったら、1年のどのタイミングで何をするかを流れで掴んでおくと迷いません。労働保険料は「概算で前払いして翌年に精算する」サイクルが毎年繰り返されます。
| 時期 | 作業内容 |
|---|---|
| 毎年6〜7月 | 年度更新申告書の提出・概算保険料の納付 |
| 申告時 | 前年度の確定保険料との差額を精算 |
| 毎月 | 給与から雇用保険料(従業員分)を天引き |
| 翌年6〜7月 | 再び年度更新(繰り返し) |
毎年6〜7月の年度更新が一度きりのイベントではなく、毎月の給与天引きと組み合わさって回り続ける点がポイントです。月次の預り金処理を続けながら、年に一度まとめて精算する、という二段構えで理解すると整理しやすくなります。
労働保険料で間違えやすいポイント4選
勘定科目そのものより、周辺の例外ルールでつまずくケースが目立ちます。税務調査でも指摘されやすい4点を押さえておきます。
- 役員には雇用保険が適用されない
- 延滞金・追徴金は「租税公課」かつ損金不算入
- 消費税区分は「対象外(不課税)」
- 建設業などの「二元適用事業」は手順が異なる
ポイント1:役員には雇用保険が適用されない
法人の代表取締役・役員には、原則として雇用保険は適用されません。したがって役員報酬から雇用保険料を天引きすることはできません(従業員兼務役員を除く)。役員分まで誤って預り金計上しないよう注意します。役員報酬そのものの扱いは役員報酬の勘定科目と仕訳例で整理しています。
ポイント2:延滞金・追徴金は「租税公課」かつ損金不算入
納付期限を過ぎた場合の延滞金は、法定福利費ではなく租税公課で処理します。さらに重要なのは、この延滞金が税務上の損金(経費)にならないこと。会計上は費用でも、税務申告では加算が必要です。損金になる税金とならない税金の線引きは「租税公課」で落とせる税金と「法人税等」の違いもあわせて確認してください。
ポイント3:消費税区分は「対象外(不課税)」
労働保険料は公的な支出で対価を伴わないため、消費税はかかりません。会計ソフトへの入力時は、税区分で「対象外」または「不課税」を選択します。誤って「課税仕入れ」にすると消費税の計算がずれるため、入力時点での確認が必須です。
ポイント4:建設業などの「二元適用事業」は手順が異なる
建設業・農林水産業などは、労災保険と雇用保険を別々に申告する「二元適用事業」にあたり、申告書が2種類になります。一般の事業(一元適用)と手順が違うため、自社がどちらに該当するかを最初に確認しておきます。
よくある質問
労働保険料の処理で実務担当者から寄せられる質問を整理します。
Q1:労働保険料を3分割で支払っている(延納)場合の仕訳は?
各分割払いのタイミングで「法定福利費」として計上する方法が基本です。初回に全額を計上して残額を「前払費用」で管理する方法と、支払う都度計上する方法があります。どちらでも構いませんが、毎期同じ方法を継続してください。
Q2:従業員が退職した月の雇用保険料はどうなりますか?
退職時の給与からも雇用保険料を天引きします。最後の給与支払時に「預り金」として計上し、次回の年度更新に含めて精算します。退職したからといって、その月分を免除する処理にはなりません。
Q3:概算保険料を払いすぎた場合(還付)の処理は?
次年度の概算保険料と相殺する「充当」が一般的です。現金で還付を受ける場合は「未収入金」で処理し、入金時に消し込みます。実務では充当を選ぶケースが多く、その場合は次年度の納付額がその分減ります。
まとめ
労働保険料の勘定科目は、結局のところ法定福利費(会社負担)と預り金(従業員負担)の2つで処理できます。複雑に見えるのは年度更新の概算・確定サイクルが原因で、仕訳パターン自体はシンプルです。
| 確認ポイント | 内容 |
|---|---|
| 会社負担分 | 法定福利費 |
| 従業員負担分(給与天引き) | 預り金 |
| 年度更新の概算払い | 法定福利費 |
| 確定精算の不足額 | 法定福利費(追加計上) |
| 消費税区分 | 対象外(不課税) |
給与天引きと納付・決算をまたぐ預り金の全体像は、社会保険料の仕訳を完全解説とあわせて押さえると、労働保険・社会保険まわりの処理が一気に整理できます。
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免責事項
※本記事は一般的な会計処理の整理であり、個別の税務判断を保証するものではありません。自社の状況に応じた具体的な処理は、顧問税理士や所轄の労働局・労働基準監督署にご相談ください。
