複式簿記とは1つの取引を原因と結果の両面から記録する方法です。単式簿記との違いは財産の動きまで追うか、借方・貸方と簿記5要素のホームポジション、仕訳→元帳→試算表→財務諸表の記帳ステップ、青色申告65万円控除に必須な理由を解説します。
この記事でわかること
- 複式簿記とは1つの取引を「原因」と「結果」の両面から記録する方法だということ
- 単式簿記との違いは「お金の増減だけ」か「財産の動きまで」追うかにあること
- 初心者がつまずく借方・貸方と簿記5要素のホームポジションの考え方
- 取引から決算書までの記帳ステップ(仕訳→元帳→試算表→財務諸表)
- 複式簿記が青色申告の65万円控除に必須である理由
公的情報源: 国税庁「はじめてみませんか?青色申告」(参照)/中小企業庁「中小企業の会計」
結論を先に書きます
複式簿記とは、1つの取引を「借方」と「貸方」の2つの面から記録する方法です。たとえば「現金3万円で備品を買った」なら、備品が増えた事実と現金が減った事実を同時に記録します。
家計簿のようにお金の増減だけを書く単式簿記と違い、複式簿記なら会社の財産や借金の状態まで見えます。だから決算書(貸借対照表・損益計算書)を作れて、青色申告の65万円控除も受けられます。
- 複式簿記=1つの取引を借方(左)と貸方(右)に分けて記録する方法
- 単式簿記との違いはお金の増減だけか、財産の動きまで追うか
- 覚え方の軸は資産・負債・純資産・費用・収益の5要素のホームポジション
- 複式簿記で記帳すると青色申告65万円控除・正確な経営把握が可能になる
複式簿記とは:取引を「原因」と「結果」で記録する
複式簿記とは、1つの取引を必ず2つの側面から記録する帳簿のつけ方です。お金が動いた「結果」だけでなく、その「原因」も同時に書きます。
たとえば「売上として現金1万円を受け取った」場合、単にお金が増えたと書くだけでは不十分です。複式簿記では「現金が1万円増えた(結果)」と「売上が1万円発生した(原因)」を左右に並べて記録します。
このとき左側を借方(かりかた)、右側を貸方(かしかた)と呼びます。1つの取引で借方と貸方の金額は必ず一致します。この「必ず左右が釣り合う」仕組みが、複式簿記が正確といわれる理由です。
| 取引 | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| 現金1万円の売上 | 現金 10,000 | 売上 10,000 |
| 備品3万円を現金で購入 | 備品 30,000 | 現金 30,000 |
借方・貸方という言葉自体の意味は仕訳とは?借方・貸方の基本でも詳しく解説しています。
単式簿記との違い:追う範囲がまったく違う
複式簿記を理解するには、単式簿記と比べるのがいちばんです。両者はそもそも「何を記録するか」の範囲が違います。
単式簿記は、家計簿や現金出納帳のようにお金の収入と支出だけを記録します。シンプルで簡単ですが、財産や借金の状態は分かりません。
| 比較項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
|---|---|---|
| 記録する範囲 | 現金・預金の増減だけ | 資産・負債・純資産・収益・費用のすべて |
| 記帳の手間 | 簡単(家計簿レベル) | 一定の簿記知識が必要 |
| 分かること | いくら残ったか | 財産・借金・もうけの全体像 |
| 作れる書類 | 収支の記録のみ | 貸借対照表・損益計算書 |
| 青色申告控除 | 最大10万円 | 最大65万円 |
いちばんの違いは、複式簿記なら決算書(貸借対照表・損益計算書)が作れる点です。単式簿記では「今いくら残っているか」しか分かりませんが、複式簿記なら「なぜ増えたのか・何を持っているのか」まで見えます。この差が、後述する青色申告の控除額の違いにつながります。
借方・貸方と簿記5要素のホームポジション
初心者が最初につまずくのが「どっちが借方でどっちが貸方か」です。ここは丸暗記ではなく、5要素のホームポジションで覚えると一気に楽になります。
すべての勘定科目は、次の5つのグループのどれかに入ります。
- 資産(現金・預金・備品・売掛金など、持っているもの)
- 負債(借入金・買掛金など、返す義務があるもの)
- 純資産(元手・利益など、正味の財産)
- 費用(仕入・家賃・給料など、かかったお金)
- 収益(売上・受取利息など、稼いだお金)
この5要素には、それぞれ「増えたときに書く定位置(ホームポジション)」があります。
| 5要素 | 増えたとき | 減ったとき |
|---|---|---|
| 資産 | 借方(左) | 貸方(右) |
| 費用 | 借方(左) | 貸方(右) |
| 負債 | 貸方(右) | 借方(左) |
| 純資産 | 貸方(右) | 貸方の逆(左) |
| 収益 | 貸方(右) | 借方の逆(左) |
資産と費用が増えたら左(借方)、負債・純資産・収益が増えたら右(貸方)。これだけ覚えれば、たいていの仕訳は組み立てられます。「現金(資産)が増えた→左」「売上(収益)が増えた→右」というように、要素を判定してから左右を決めるのがコツです。5要素と勘定科目の関係は勘定科目とは?5つのグループで整理しています。
複式簿記の記帳ステップ:取引から決算書まで
複式簿記は、取引を記録してから決算書ができるまで決まった流れがあります。全体像を知っておくと、いま自分が何をしているか迷いません。
- 取引が発生する(売上・仕入・支払いなど)
- 仕訳帳に「仕訳」する(借方・貸方に分ける)
- 総勘定元帳に「転記」する(科目ごとに集計)
- 試算表を作って左右の一致を確認する
- 決算整理をして財務諸表(決算書)を作る
まず取引を借方・貸方に分けて仕訳します。それを科目ごとにまとめたのが総勘定元帳です。集計した結果、借方と貸方の合計が一致するかを試算表で確認します。
最後に決算整理をして、貸借対照表と損益計算書が完成します。会計ソフトを使えば、仕訳さえ入力すれば元帳・試算表・決算書は自動で作られます。つまり私たちが手を動かすのは「仕訳」の部分がほとんどです。記帳の全体像は経理・仕訳とは?記帳の基本もあわせてどうぞ。
具体的な仕訳例で複式簿記に慣れる
考え方が分かったら、あとは仕訳に慣れるだけです。日常でよくある4つの取引を、5要素の判定つきで見ていきます。
例1:売上として現金を受け取った
商品を売って現金10,000円を受け取りました。現金(資産)が増え、売上(収益)が発生します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 10,000 | 売上 | 10,000 |
資産が増えたので左、収益が増えたので右。ホームポジション通りです。
例2:家賃を預金から支払った
事務所家賃50,000円を普通預金から払いました。地代家賃(費用)が発生し、預金(資産)が減ります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 地代家賃 | 50,000 | 普通預金 | 50,000 |
費用が増えたので左、資産が減ったので右です。
例3:銀行から借り入れた
銀行から100万円を借り、普通預金に入金されました。預金(資産)が増え、借入金(負債)が増えます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,000,000 | 借入金 | 1,000,000 |
資産が増えたので左、負債が増えたので右。売上ではないので収益には入れません。
例4:備品を掛けで購入した
パソコン15万円を後払い(掛け)で買いました。備品(資産)が増え、未払金(負債)が増えます。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 備品 | 150,000 | 未払金 | 150,000 |
現金が動かない取引でも、複式簿記なら「資産の増加」と「債務の増加」をきちんと記録できます。これが単式簿記にはできない強みです。
複式簿記と青色申告65万円控除の関係
個人事業主が複式簿記を学ぶ最大の理由が、青色申告の特別控除です。記帳方法によって控除額が大きく変わります。
| 記帳方法・申告 | 特別控除額 |
|---|---|
| 白色申告(単式簿記相当) | 控除なし |
| 青色申告+単式(簡易簿記) | 10万円 |
| 青色申告+複式簿記(紙・書面提出) | 55万円 |
| 青色申告+複式簿記+e-Tax等 | 65万円 |
複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して電子申告すると、最大65万円の所得控除を受けられます。単式簿記の10万円と比べると、その差は55万円分の所得。税率が20%なら、それだけで10万円以上の節税になります。
会計ソフトを使えば複式簿記の知識が浅くても仕訳から決算書まで作れるため、65万円控除のハードルはかなり下がっています。青色申告の要件は損益計算書の勘定科目一覧とあわせて確認してください。最新の要件は国税庁「はじめてみませんか?青色申告」を参照してください(2026年6月時点)。
よくある質問
複式簿記について、初心者が迷いやすい質問をまとめます。
Q1:複式簿記と単式簿記はどちらを使えばいいですか?
事業をしていて青色申告で節税したいなら複式簿記です。複式簿記なら最大65万円の特別控除が受けられ、経営状態も正確に把握できます。単式簿記は家計簿レベルで簡単ですが、控除は最大10万円にとどまります。
Q2:借方と貸方はどう見分ければいいですか?
勘定科目がどの5要素かを判定し、ホームポジションで決めます。資産・費用が増えたら借方(左)、負債・純資産・収益が増えたら貸方(右)です。減るときは逆側に書きます。まず要素を見分けるのが近道です。
Q3:簿記の知識がなくても複式簿記はできますか?
できます。会計ソフトを使えば、取引を選んで金額を入れるだけで自動的に借方・貸方が振り分けられ、決算書まで作られます。ただし科目の選び方など最低限の考え方を知っておくと、ミスに気づきやすくなります。
Q4:複式簿記だと何の書類が作れますか?
貸借対照表と損益計算書が作れます。貸借対照表は決算日の財産と借金の状態、損益計算書は1年間のもうけを示します。この2つを添付できるのが、青色申告65万円控除の条件になっています。
Q5:1つの取引で借方と貸方の金額が合わないときは?
複式簿記では、1つの取引の借方合計と貸方合計は必ず一致します。合わないときは科目の選び間違いか金額の入力ミスです。試算表で借方と貸方の合計がズレていれば、どこかの仕訳に誤りがあるサインになります。
Q6:複式簿記を学ぶには簿記の資格が必要ですか?
資格は不要です。ただし日商簿記3級レベルの知識があると、科目の判断や決算の流れが理解しやすくなります。実務では会計ソフトが計算を担うため、まずは本記事の5要素とホームポジションを押さえれば十分に始められます。
まとめ
複式簿記とは何かを、単式簿記との違いから記帳ステップまで整理しました。
- 複式簿記=1つの取引を借方(左)と貸方(右)の両面から記録する方法
- 単式簿記との違いはお金の増減だけか、財産の動きまで追うか
- 覚え方の軸は資産・費用は借方、負債・純資産・収益は貸方のホームポジション
- 記帳は取引→仕訳→元帳→試算表→財務諸表の流れで進む
- 複式簿記で記帳すれば青色申告65万円控除と正確な経営把握が可能になる
複式簿記は難しそうに見えますが、正体は「取引を左右に分けて記録するルール」です。5要素とホームポジションさえ押さえれば、あとは仕訳を繰り返すうちに自然と身につきます。会計ソフトが計算を助けてくれる今、複式簿記は誰にとっても手の届く技術になっています。
複式簿記の借方・貸方の仕組みを理解し、日々の取引を体系立てて記帳していく力は、経理実務のすべての出発点です。その土台の確かさが今の職場で正当に評価されているか気になる方は、経理・管理部門に特化した転職エージェントで市場価値や求人の相場を確かめてみるのも一つの手です。会計士・税理士としてのキャリアを視野に入れているならツインプロの無料キャリア面談という選択肢もあります。
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免責事項
※本記事は簿記・会計の一般的な考え方を整理したものです。青色申告の要件や控除額は改正される場合があります。最終的な判断は国税庁の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて顧問税理士にご相談ください。
