退職金の仕訳は、従業員なら借方「退職金」、役員なら借方「役員退職金」で費用に計上し、源泉所得税と住民税を「預り金」に、差引支給額を「普通預金」に置きます。退職金1,200万円・勤続19年なら源泉所得税は125,072円、住民税は220,000円(令和8年分・国税庁 No.2732の計算法)で、「退職所得の受給に関する申告書」がないと源泉所得税だけ2,450,400円に跳ね上がります。
この記事でわかること
- 退職金の仕訳で使う5つの勘定科目(退職金・役員退職金・退職給付引当金・役員退職慰労引当金・預り金)と、誰に払うか×引当金の有無で決まる4パターン
- 従業員に1,200万円を支給したときの仕訳3本(支給・源泉所得税の納付・住民税の納入)
- 源泉所得税を4段で計算する表(勤続年数→退職所得控除→課税退職所得→速算表)と、申告書あり・なしの税額の差
- 役員退職金の仕訳と損金算入の条件(法人税法34条2項・施行令70条2号・功績倍率法)、勤続5年以下の役員・従業員の計算
- 退職給付引当金を取り崩す仕訳と別表四の調整、未払計上できる場合・できない場合、中退共・企業型DCで会社の仕訳が要らない理由
公的情報源: 国税庁タックスアンサー No.2732「退職手当等に対する源泉徴収」(参照)/別紙「退職所得の源泉徴収税額の速算表」(参照)/No.5208「役員の退職金の損金算入時期」(参照)/法人税基本通達 9-2-27の3〜9-2-39(参照)
先に答え
退職金の仕訳は「費用科目/預り金/普通預金」の3行が基本形です。従業員には「退職金」、役員には「役員退職金」を借方に立て、源泉所得税と住民税を預り金で預かり、残りを振り込みます。
退職給付引当金を積んでいる会社は、借方の費用科目が「退職給付引当金」の取り崩しに置き換わります。引当金で足りない分だけを費用にする形です。
この記事の要点
- 勘定科目は誰に払うか(従業員=退職金/役員=役員退職金)と引当金の有無で4パターン。消費税はどれも不課税(対象外)
- 源泉所得税は「退職所得の受給に関する申告書」があれば退職所得控除→1/2→速算表の順で計算し、なければ支給額×20.42%(No.2732・令和8年4月1日現在法令等)
- 住民税は課税退職所得金額に市町村民税6%・道府県民税4%を掛けて特別徴収する(地方税法328条の3・50条の4)。申告書がなくても計算方法は同じ
- 従業員の退職金は退職日の事業年度に未払計上でも損金になる。役員は株主総会の決議で確定した事業年度が原則(法基通9-2-28)
- 引当金の繰入は損金にならず、取り崩したときに損金へ戻る。中退共・企業型DCの退職金は機構や運営管理機関が直接払うため会社の仕訳は掛金だけ
退職金の仕訳とは|勘定科目は「誰に払うか」と「引当金の有無」で4パターン
退職金の仕訳とは、退職する従業員や役員に支払う退職手当を費用に計上し、源泉所得税と住民税を預かったうえで差引額を支払う処理です。所得税法30条1項は「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」を退職所得と定めており、給与とは別の計算で税額を出します。
科目の選び方は2つの軸で決まります。「従業員か役員か」と「引当金を積んでいたか」です。
退職金の仕訳で借方に立てる科目を決める2つの軸
- 退職金を誰に払うか、引当金を積んでいたかを確認する
- STEP1従業員に払う・引当金なし借方「退職金」(販管費)。支給時に全額を費用計上
- STEP2従業員に払う・退職給付引当金あり借方「退職給付引当金」で取り崩し。不足分だけ「退職金」または「退職給付費用」
- STEP3役員に払う・引当金なし借方「役員退職金」(役員退職慰労金)。金額が大きく臨時なら特別損失に表示する会社もある
- STEP4役員に払う・役員退職慰労引当金あり借方「役員退職慰労引当金」で取り崩し。不足分だけ「役員退職金」
図:貸方はどのパターンでも「預り金(源泉所得税・住民税)」と「普通預金」。引当金の有無は借方だけを変える。
退職金の仕訳で使う勘定科目(2026年9月時点)
| 勘定科目 | 区分 | 使う場面 | 消費税区分 |
|---|---|---|---|
| 退職金(退職手当) | 費用(販管費) | 従業員に支給するとき。製造部門なら製造原価の「退職金」 | 対象外 |
| 役員退職金(役員退職慰労金) | 費用(販管費または特別損失) | 役員に支給するとき。従業員分と分けて集計する | 対象外 |
| 退職給付引当金 | 負債(固定負債) | 従業員の将来の退職金を見積もって積んでいた分を取り崩す | 対象外 |
| 役員退職慰労引当金 | 負債(固定負債) | 役員分の引当金を取り崩す | 対象外 |
| 預り金 | 負債(流動負債) | 源泉所得税・住民税を預かり、翌月10日までに納付する | 対象外 |
| 未払金 | 負債(流動負債) | 退職日と支給日が離れる、または決算をまたぐときの未払計上 | 対象外 |
役員退職金を「販管費」と「特別損失」のどちらに表示するかは会社の判断で、損金算入の可否には影響しません。金額が数千万円になり毎期の営業利益と比べにくいときは、特別損失に置くと損益計算書の読み手が経常的な利益を追いやすくなります。
消費税は、給与と同じく退職金も不課税です。会計ソフトでは「対象外」を選び、仕入税額控除の対象にはなりません。
退職金と賞与・弔慰金の線引き
退職に基因して支払うものは、名目が「功労金」「餞別」でも退職手当等に含まれます(No.2732)。一方で、退職とは関係なく支給する決算賞与や慰労目的の一時金は賞与で、給与の源泉徴収税額表を使います。
死亡退職により遺族へ払う退職金で相続税の課税対象になるものは、所得税の対象になりません。No.2732の記載も「源泉徴収は必要ありません」です。
退職金の仕訳例|従業員に1,200万円を支給する場合の3本(支給・納付・住民税)
従業員の退職金の仕訳は、支給・源泉所得税の納付・住民税の納入の3本で完結します。ここでは退職金1,200万円・勤続18年1か月・「退職所得の受給に関する申告書」提出済みの従業員を例にします。
勤続年数は1年未満の端数を切り上げて19年です(No.2732)。源泉所得税125,072円と住民税220,000円の計算は次の章で表にしています。
従業員に退職金1,200万円を支給した(勤続19年・申告書あり・引当金なし)
借方
退職金 12,000,000
貸方
預り金(源泉所得税) 125,072
預り金(住民税) 220,000
普通預金 11,654,928
図:費用は総額1,200万円で計上し、税金は預り金で預かる。振込額は税引後の11,654,928円になる。
仕訳例1(支給時)|退職金1,200万円を支給し、源泉所得税125,072円と住民税220,000円を差し引いて振り込んだ
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 退職金 | 12,000,000 | 預り金(源泉所得税) | 125,072 | 対象外 |
| 預り金(住民税) | 220,000 | 対象外 | ||
| 普通預金 | 11,654,928 | 対象外 |
預り金は給与の源泉所得税や社会保険料と同じ科目ですが、退職金分は補助科目か摘要で分けておくと納付書との突き合わせが楽です。年末調整で預り金を精算する仕訳(還付・追加徴収・預り金のマイナス)は年末調整の仕訳で扱っています。
仕訳例2(納付時)|翌月10日までに源泉所得税125,072円を納付した
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金(源泉所得税) | 125,072 | 普通預金 | 125,072 | 対象外 |
所得税法199条は、退職手当等の源泉所得税を「徴収の日の属する月の翌月十日までに」納付するよう定めています。納付書は「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」で、退職手当等の欄に人員・支給額・税額を書く形です。納期の特例(半年ごと)を受けている会社なら、退職手当等の分も特例の対象になります(所法216条)。
仕訳例3(納入時)|住民税220,000円を市区町村に納入した
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 預り金(住民税) | 220,000 | 普通預金 | 220,000 | 対象外 |
退職所得の住民税は、退職金を受け取るべき日の属する年の1月1日に住んでいた市区町村に納めます(地方税法328条)。毎月の給与から引く住民税と違い、支給時に会社が税額を計算して特別徴収する点が特徴です。納入書の「退職所得分」欄に市町村民税と道府県民税を分けて記入します。
退職金の支給日と退職日がずれるときの未払計上
退職日が3月末で支給が4月20日のように月をまたぐときは、退職日に未払金を立てて支給時に取り崩します。損金算入との関係は後の章の表に譲り、ここでは仕訳だけ先に示しておきましょう。
仕訳例4(未払計上)|3月31日に退職した従業員の退職金1,200万円を、4月20日に支給する
| 日付 | 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3/31 | 退職金 | 12,000,000 | 未払金 | 12,000,000 | 対象外 |
| 4/20 | 未払金 | 12,000,000 | 預り金(源泉所得税) | 125,072 | 対象外 |
| 預り金(住民税) | 220,000 | 対象外 | |||
| 普通預金 | 11,654,928 | 対象外 |
源泉所得税は「支払の際」に徴収するため(所法199条)、未払計上の時点では預り金を立てません。
退職金の源泉所得税と住民税の計算表|申告書あり・なしで税額はいくら違うか
退職金の源泉所得税は、「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っているかどうかで計算方法が変わります(No.2732・令和8年4月1日現在法令等)。申告書があれば退職所得控除と2分の1計算を使い、なければ支給額に20.42%を掛けるだけです。
退職所得控除額の計算表(所得税法30条3項・令和8年分)
| 勤続年数(A)※1年未満は切上げ | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円×A(80万円未満なら80万円) |
| 20年超 | 800万円+70万円×(A-20年) |
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、上の額に100万円を加えます(No.2732)。
退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和8年分・国税庁 別紙)
| 課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) | 税額(復興特別所得税込み) |
|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 | (A×5%)×102.1% |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 | (A×10%-97,500円)×102.1% |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 | (A×20%-427,500円)×102.1% |
| 695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 | (A×23%-636,000円)×102.1% |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | (A×33%-1,536,000円)×102.1% |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | (A×40%-2,796,000円)×102.1% |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | (A×45%-4,796,000円)×102.1% |
課税退職所得金額は1,000円未満を切り捨て、求めた税額は1円未満を切り捨てます。令和9年分以後は復興特別所得税の一部が防衛特別所得税に組み替わりますが、No.1420は「合計税率に変更はありません」としており、102.1%の計算は変わりません。
計算例|退職金1,200万円・勤続18年1か月(一般退職手当等)
源泉所得税と住民税の計算過程(申告書あり・令和8年分)
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 勤続年数 | 18年1か月→1年未満切上げ | 19年 |
| ② 退職所得控除額 | 40万円×19年 | 7,600,000円 |
| ③ 課税退職所得金額 | (12,000,000円-7,600,000円)×1/2 | 2,200,000円 |
| ④ 源泉所得税 | (2,200,000円×10%-97,500円)×102.1%=125,072.5円 | 125,072円 |
| ⑤ 住民税(市町村民税) | 2,200,000円×6% | 132,000円 |
| ⑥ 住民税(道府県民税) | 2,200,000円×4% | 88,000円 |
| ⑦ 差引支給額 | 12,000,000円-125,072円-220,000円 | 11,654,928円 |
住民税の税率は地方税法328条の3(市町村民税6%)と50条の4(道府県民税4%)で、課税退職所得金額は所得税と同じ計算です(50条の3)。市町村民税と道府県民税はそれぞれ100円未満を切り捨てます。
同じ退職金1,200万円で「申告書」の有無を比べる(令和8年分)
| 区分 | 申告書あり | 申告書なし |
|---|---|---|
| 源泉所得税 | 125,072円 | 12,000,000円×20.42%=2,450,400円 |
| 住民税 | 220,000円 | 220,000円(計算方法は同じ・地方税法328条の6第2項) |
| 差引支給額 | 11,654,928円 | 9,329,600円 |
| 本人の精算 | 原則として確定申告は不要 | 本人が確定申告して2,325,328円の差額を精算 |
申告書は本人が会社経由で税務署に出す書類で、会社が受理した時点で提出したものとみなされます(所法203条3項)。会社の手元に保管すれば足り、税務署への送付は不要です。退職の面談で申告書を渡し、支給前に回収するだけで本人の手取りが230万円変わります。
勤続5年以下は計算が変わる|短期退職手当等と特定役員退職手当等
勤続5年以下の従業員に払う退職金は「短期退職手当等」で、控除後の残額が300万円を超える部分に2分の1計算が使えません(所法30条2項・令和4年1月1日以後)。役員としての勤続年数が5年以下の役員に払う分は「特定役員退職手当等」で、2分の1計算そのものがありません。
勤続5年以下の退職金の源泉所得税(令和8年分・申告書あり)
| 区分 | 例 | 退職所得控除 | 課税退職所得金額 | 源泉所得税 | 一般退職手当等なら |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期退職手当等(従業員・勤続3年) | 退職金500万円 | 120万円 | 150万円+{500万円-(300万円+120万円)}=230万円 | (230万円×10%-97,500円)×102.1%=135,282円 | 96,995円 |
| 特定役員退職手当等(役員・4年) | 退職金1,000万円 | 160万円 | 1,000万円-160万円=840万円(1/2なし) | (840万円×23%-636,000円)×102.1%=1,323,216円 | 421,162円 |
短期退職手当等の課税退職所得金額は、300万円までは2分の1(150万円)、300万円を超える80万円は全額という組み立てです。同じ年に一般と短期・特定役員が混在する場合の計算はNo.2741に分かれています。
役員退職金の仕訳例|功績倍率法と損金算入の条件(法人税法34条2項・施行令70条2号)
役員退職金の仕訳は従業員と同じ3行で、借方が「役員退職金」に変わります。違いは税務側にあり、「不相当に高額な部分」は損金になりません(法人税法34条2項)。
仕訳例5(支給時)|代表取締役(在任25年)に役員退職金3,000万円を株主総会決議のうえ支給した(申告書あり)
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 30,000,000 | 預り金(源泉所得税) | 1,548,346 | 対象外 |
| 預り金(住民税) | 925,000 | 対象外 | ||
| 普通預金 | 27,526,654 | 対象外 |
役員退職金3,000万円・在任25年の税額計算(令和8年分・申告書あり)
| 手順 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ① 退職所得控除額 | 800万円+70万円×(25年-20年) | 11,500,000円 |
| ② 課税退職所得金額 | (30,000,000円-11,500,000円)×1/2 | 9,250,000円 |
| ③ 源泉所得税 | (9,250,000円×33%-1,536,000円)×102.1%=1,548,346.5円 | 1,548,346円 |
| ④ 住民税 | 9,250,000円×6%=555,000円+9,250,000円×4%=370,000円 | 925,000円 |
| ⑤ 差引支給額 | 30,000,000円-1,548,346円-925,000円 | 27,526,654円 |
「不相当に高額」を判定する3つの要素と功績倍率法
法人税法施行令70条2号は、役員退職給与が相当かどうかを次の3つに照らして判定すると定めています。
- その役員が業務に従事した期間
- 退職の事情(任期満了・病気・分掌変更など)
- 同種の事業で事業規模が類似する法人の役員退職給与の支給状況
実務で使われる功績倍率法は、法人税基本通達9-2-27の3の注で「役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法」と定義されています。式にすると次のとおりです。
功績倍率法の計算式と計算例(倍率は仮置き)
| 項目 | 内容 | 計算例 |
|---|---|---|
| 最終月額報酬 | 退職直前の役員報酬(月額) | 500,000円 |
| 在任年数 | 役員として業務に従事した期間 | 25年 |
| 功績倍率 | 職責に応じた倍率。法令に数値の定めはない | 2.4(仮置き) |
| 役員退職金 | 最終月額報酬×在任年数×功績倍率 | 500,000円×25年×2.4=30,000,000円 |
倍率の数値は法令にも通達にもありません。同種同規模の法人の支給状況と比べて説明できる倍率かどうかが、施行令70条2号の3つ目の要素で問われます。退職直前に報酬を引き上げて基礎額を膨らませると、「相当であると認められる金額」を超える部分が損金不算入です。
役員退職金の損金算入時期は「株主総会の決議」
役員退職金は、株主総会の決議等で金額が具体的に確定した日の属する事業年度に損金算入します(No.5208・法基通9-2-28)。決議の前に取締役会で内定した額を未払金に計上しても損金になりません。ただし、実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、支払った事業年度で損金にすることも認められます。
分掌変更で退職金を払うケースには条件があります。常勤から非常勤へ、取締役から監査役へ、報酬がおおむね50%以上減少、のように地位や職務の内容が激変し実質的に退職したと同様の事情がある場合だけ退職給与として扱えます(法基通9-2-32)。この場合の未払金計上分は原則として退職給与に含まれません。
退職給付引当金を積んでいる場合の退職金の仕訳|取り崩しと別表四の調整
退職給付引当金を積んでいる会社は、支給時に引当金を取り崩し、足りない分だけ費用にする仕訳になります。会計上は引当金を積んだ期に費用が先に立っていますが、法人税では引当金の繰入が損金にならないため、別表四で加算と減算を行き来させます。
退職金1,200万円を「引当金なし」と「引当金900万円あり」で払ったときの違い
- 借方
- 退職金 12,000,000
- 当期の会計上の費用
- 12,000,000円
- 当期の損金
- 12,000,000円(調整なし)
- 借方
- 退職給付引当金 9,000,000/退職金 3,000,000
- 当期の会計上の費用
- 3,000,000円
- 当期の損金
- 12,000,000円(別表四で9,000,000円を減算)
図:引当金があっても、当期の損金は結局1,200万円。過去に加算していた900万円を取り崩した期に減算で戻す。
仕訳例6(決算時の繰入)|期末に従業員の退職給付債務を見積もり、引当金を200万円繰り入れた
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 退職給付費用(退職給付引当金繰入額) | 2,000,000 | 退職給付引当金 | 2,000,000 | 対象外 |
法人税法22条3項2号は、償却費以外の費用について「当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く」と定めています。退職前の見積額は債務が確定していないため、繰入額は損金になりません。別表四で「退職給付引当金繰入額の損金不算入」として加算(留保)します。
仕訳例7(支給時の取り崩し)|退職金1,200万円のうち、この従業員分の引当金残高900万円を取り崩して支給した(申告書あり)
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 退職給付引当金 | 9,000,000 | 預り金(源泉所得税) | 125,072 | 対象外 |
| 退職金 | 3,000,000 | 預り金(住民税) | 220,000 | 対象外 |
| 普通預金 | 11,654,928 | 対象外 |
会計上の費用は不足分の300万円だけですが、退職で債務が確定した1,200万円が当期の損金です。過去に加算していた900万円を別表四で「退職給付引当金取崩額の損金算入」として減算(留保)します。別表五(一)の退職給付引当金の残高も同額減らします。
退職給付引当金の会計と税務のずれ(2026年9月時点)
| 時点 | 会計上の費用 | 損金 | 別表四の調整 |
|---|---|---|---|
| 決算で繰り入れたとき | 繰入額 | 0円 | 加算(留保) |
| 退職金を支給したとき(引当金で足りる) | 0円 | 支給額 | 減算(留保) |
| 退職金を支給したとき(引当金が不足) | 不足分 | 支給額 | 引当金取崩分を減算(留保) |
| 引当金を取り崩したが支給しなかった(見積りの戻入) | 戻入益 | 0円 | 減算(留保) |
役員退職慰労引当金も同じ組み立てです。繰入時に加算、株主総会の決議で確定して支給した期に減算します。
退職金の未払計上と損金算入時期|従業員は退職日・役員は決議日・分割払いと年金
退職金を未払計上して損金にできるかどうかは、「債務が確定しているか」で決まります(法人税法22条3項2号)。従業員は退職の事実と退職給与規程で金額が決まるため退職日に確定し、役員は株主総会の決議で確定します。
退職金の損金算入時期と未払計上の可否(2026年9月時点)
| ケース | 損金算入の時期 | 未払計上で損金になるか | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 従業員の退職金(規程あり) | 退職日の属する事業年度 | なる(債務確定) | 法法22条3項2号 |
| 役員退職金 | 株主総会の決議等で確定した事業年度。支払った事業年度に損金経理した場合も可 | 決議前の内定額を未払計上しても損金にならない | No.5208・法基通9-2-28 |
| 退職年金(分割で年金払い) | 年金を支給すべき時 | ならない。総額を未払金に計上しても損金不算入 | 法基通9-2-29 |
| 打切支給(中退共・DCへ移行、定年延長) | 支給した日の属する事業年度 | ならない。未払金計上は打切支給に含まれない | 法基通9-2-35 |
| 使用人が役員になったときの使用人分 | 支給した日の属する事業年度 | ならない(9-2-35の注を準用) | 法基通9-2-36 |
| 使用人兼務役員(役員分+使用人分) | 役員分と同じ | 合計額で「不相当に高額」を判定 | 法基通9-2-30 |
資金繰りの都合で退職金を数回に分けて払う「分割払い」は、退職給与規程や決議で総額が確定していれば確定した期の損金です。一方で、年金として毎年払う形にすると9-2-29が適用され、払う年ごとの損金でしか落とせません。源泉徴収は分割払いでも退職所得として計算し、按分の方法は国税庁の質疑応答事例「退職金を分割支給した場合の源泉徴収税額の計算」(No.2732の関連リンク)に載っています。
決算をまたぐ従業員の退職金は未払金で損金算入
3月決算の会社で3月31日退職・4月20日支給なら、仕訳例4のとおり3月に未払金を立てる形になります。退職給与規程で金額が計算できる状態なら、3月期の損金です。規程がなく金額が4月の取締役会で決まる場合は、その時点まで債務が確定しないため4月以降の期の損金になります。
中退共・企業型確定拠出年金からの退職金は会社の仕訳が要らない|掛金は福利厚生費で損金
中小企業退職金共済(中退共)や企業型確定拠出年金(企業型DC)に加入している会社では、退職時に会社が退職金の仕訳をしません。中退共法10条は「機構は、被共済者が退職したときは、その者に退職金を支給する」と定めており、支払者が会社ではなく独立行政法人勤労者退職金共済機構になるからです。
制度別・退職金の支給元と会社の仕訳(2026年9月時点)
| 制度 | 退職金の支給元 | 会社の仕訳 | 掛金の損金算入 | 本人の課税 |
|---|---|---|---|---|
| 社内の退職給与規程 | 会社 | 支給・預り金・納付の3本(仕訳例1〜3) | 支給時(法法22条3項2号) | 退職所得(所法30条) |
| 中退共 | 勤労者退職金共済機構 | 掛金の支払だけ。退職時の仕訳・源泉徴収なし | 掛金全額(法令135条1号) | 退職所得(所令72条3項2号) |
| 企業型DC(一時金受取) | 運営管理機関・資産管理機関 | 事業主掛金の支払だけ | 事業主掛金全額(法令135条3号) | 退職所得(No.1420) |
| 確定給付企業年金(一時金受取) | 企業年金基金・受託機関 | 掛金の支払だけ | 掛金(法令135条2号) | 退職所得(所法31条3号) |
仕訳例8(毎月)|中退共の掛金として従業員10人分・月額10,000円×10人を口座振替で支払った
| 借方 | 金額(円) | 貸方 | 金額(円) | 税区分 |
|---|---|---|---|---|
| 福利厚生費(または退職給付費用) | 100,000 | 普通預金 | 100,000 | 対象外 |
中退共の掛金月額は被共済者1人につき5,000円以上30,000円以下です(中退共法4条2項・短時間労働者は2,000円から)。掛金は法人税法施行令135条1号で「損金の額に算入する」と定められており、退職給付引当金のような別表四の調整はありません。科目は福利厚生費でも退職給付費用でも構いませんが、社会保険料の法定福利費と混ぜないように分けます。
中退共に上乗せして会社からも払うときはNo.2735
中退共の退職金に会社が独自の退職金を上乗せする場合、本人は同じ年に2か所から退職手当等を受け取ります。後で払う側は、本人が申告書に記載した「支払済みの他の退職手当等」を合算して税額を計算し、先に徴収された税額を差し引きます(所法201条1項2号・No.2735)。会社が後払いなら、機構が発行した退職所得の源泉徴収票を申告書に添付してもらってから計算します。
よくある質問
退職金の仕訳で実際によく検索される6問です。
Q1:退職金の仕訳で使う勘定科目は何ですか?
従業員なら「退職金」、役員なら「役員退職金(役員退職慰労金)」を借方に立て、貸方に「預り金(源泉所得税・住民税)」と「普通預金」を置きます。退職給付引当金を積んでいれば、借方が「退職給付引当金」の取り崩しになり、不足分だけを退職金にします。消費税はいずれも対象外です。
Q2:退職金の源泉徴収はどう計算しますか?
「退職所得の受給に関する申告書」があれば、勤続年数から退職所得控除額を出し、(支給額-控除額)×1/2を課税退職所得金額として速算表で税額を計算し、102.1%を掛けます(No.2732・令和8年分)。申告書がなければ支給額×20.42%です。退職金1,200万円・勤続19年なら前者は125,072円、後者は2,450,400円になります。
Q3:退職金の住民税は会社が引く必要がありますか?
あります。退職所得の住民税は、支給時に会社が課税退職所得金額×10%(市町村民税6%・道府県民税4%)を計算して特別徴収し、その年の1月1日時点の住所地の市区町村に納入します(地方税法328条・328条の3・50条の4)。所得税と違い、申告書がなくても計算方法は変わりません(328条の6第2項)。
Q4:退職金を未払計上しても損金になりますか?
従業員の退職金は、退職給与規程で金額が決まり退職日に債務が確定していれば、未払計上した事業年度の損金になります(法人税法22条3項2号)。役員退職金は株主総会の決議で確定した事業年度が原則で、決議前の内定額を未払計上しても損金になりません(No.5208・法基通9-2-28)。年金払いの総額を未払計上した場合も損金不算入です(9-2-29)。
Q5:退職給付引当金を取り崩す仕訳と税務調整はどうなりますか?
借方「退職給付引当金」、貸方「預り金」「普通預金」で取り崩し、引当金が足りなければ差額を「退職金」にします。法人税では繰入時に別表四で加算(留保)していた額を、取り崩した期に減算(留保)で戻します。当期の損金は会計上の費用でなく、退職で確定した支給額の全額です。
Q6:中退共から支給される退職金は会社で仕訳が必要ですか?
不要です。中退共の退職金は勤労者退職金共済機構が従業員に直接支給するため(中退共法10条)、会社は支給の仕訳も源泉徴収もしません。会社の仕訳は毎月の掛金を福利厚生費などで計上するだけで、掛金は法人税法施行令135条1号により全額が損金になります。
まとめ
退職金の仕訳を1枚に整理します。
この記事のまとめ
- 退職金の仕訳は費用科目/預り金/普通預金の3行。従業員は「退職金」、役員は「役員退職金」、引当金があれば「退職給付引当金」の取り崩し。消費税は対象外
- 源泉所得税は申告書ありなら退職所得控除→1/2→速算表→102.1%、申告書なしなら支給額×20.42%(No.2732・令和8年分)。1,200万円・勤続19年で125,072円と2,450,400円の差
- 住民税は課税退職所得金額×10%(市6%・県4%)を支給時に特別徴収し、1月1日の住所地に納入。申告書がなくても計算は同じ
- 勤続5年以下は短期退職手当等(300万円超は1/2なし)、役員5年以下は特定役員退職手当等(1/2なし)で税額が増える
- 従業員の退職金は退職日の期に未払計上で損金、役員は株主総会決議の期(9-2-28)。年金払い・打切支給の未払計上は損金不算入(9-2-29・9-2-35)
- 役員退職金の「不相当に高額」は従事期間・退職の事情・同種同規模法人の支給状況で判定(法令70条2号)。功績倍率の数値は法令にない
- 中退共・企業型DCは機構や運営管理機関が直接払うため会社の仕訳は掛金だけ(中退共法10条・法令135条)
退職金の仕訳 早見表(2026年9月時点)
| 場面 | 借方 | 貸方 | 損金算入の時期 |
|---|---|---|---|
| 従業員に支給(引当金なし) | 退職金 | 預り金(源泉所得税・住民税)/普通預金 | 退職日の事業年度 |
| 従業員に支給(引当金あり) | 退職給付引当金/不足分は退職金 | 預り金/普通預金 | 退職日の事業年度(取崩分は別表四で減算) |
| 役員に支給 | 役員退職金 | 預り金/普通預金 | 株主総会決議の事業年度(支払時の損金経理も可) |
| 退職日と支給日がずれる | 退職金 → 未払金 | 未払金 → 預り金/普通預金 | 従業員は退職日、役員は決議日 |
| 源泉所得税の納付(翌月10日) | 預り金(源泉所得税) | 普通預金 | ― |
| 住民税の納入(翌月10日) | 預り金(住民税) | 普通預金 | ― |
| 中退共・企業型DCの掛金 | 福利厚生費/退職給付費用 | 普通預金 | 支払時(法令135条) |
免責事項
※本記事は所得税・住民税・法人税の一般的な取扱いを国税庁の公開情報と法令(2026年9月時点・令和8年分の税額表)に基づいて整理しています。税額の計算例は説明のための仮定で、勤続年数の計算や過去の退職金の有無により結果が変わります。役員退職金の損金算入の可否は個別事情によるため、最新の法令をご確認のうえ、必要に応じて顧問税理士など有資格者へご相談ください。
