繰越利益剰余金は、会社が稼いだ利益のうち配当や積立に使わず次期へ繰り越した金額を表す、純資産(株主資本)の勘定科目です。決算で当期純利益を「損益」勘定から振り替えて増やし、配当や利益準備金の積立で減らします。会社法では配当額の10分の1を準備金として積み立てる必要があり、赤字が続けばマイナス(欠損)になることもあります。個人事業主は使わない、法人特有の科目です。
「どの区分に載るのか」「決算で当期純利益をどう振り替えるのか」「配当やマイナスのときの仕訳」まで、数値例で迷わないように整理します。
この記事でわかること
- 繰越利益剰余金は純資産(株主資本)の「利益剰余金」に属するという結論と根拠
- 決算で当期純利益を「損益」勘定から振り替える仕訳の具体例
- 配当時に必要な利益準備金の積立(会社法の10分の1ルール)の仕訳
- 繰越利益剰余金がマイナス(欠損)になったときの見方と処理
- 個人事業主は使わず「元入金」で代替するという違い
結論を先に書きます
繰越利益剰余金とは、会社が過去から積み上げてきた利益のうち、まだ使い道が決まっていない金額を表す勘定科目です。貸借対照表の純資産の部・株主資本・利益剰余金に載ります。
決算で当期純利益が出れば、その分だけ繰越利益剰余金が増えます。逆に、配当を出したり赤字を出したりすると減ります。会社の「稼いだ利益の貯金箱」と考えると分かりやすい科目です。
- 繰越利益剰余金は純資産(株主資本)。利益剰余金のうち「その他利益剰余金」に属する
- 決算で当期純利益を「損益」勘定から振り替えて増やす
- 配当時は配当額の10分の1を利益準備金に積み立てる(会社法・上限あり)
- 赤字が積み重なるとマイナス(欠損)になり、B/Sでは△(マイナス)表示
- 個人事業主にはこの科目はなく、「元入金」で利益を取り込む
繰越利益剰余金とは|利益を社内に残す純資産の勘定科目
繰越利益剰余金とは、会社が事業で稼いだ利益のうち、配当や積立に回さずに次期以降へ繰り越した金額を計上する、純資産の勘定科目です。
「利益剰余金」は、会社が自分で稼いで社内にためた利益のことです。株主が払い込んだ資本金や資本剰余金(元手)とは区別されます。繰越利益剰余金は、この利益剰余金の一部にあたります。
決算のたびに当期純利益が積み上がり、配当や損失で取り崩される――この増減の受け皿になるのが繰越利益剰余金です。会社が続くかぎり、毎期の利益・損失を吸収しながら残高が変わっていきます。
繰越利益剰余金の位置づけ|利益剰余金・利益準備金との関係

繰越利益剰余金がどこに属するのかを、純資産の構造で確認します。純資産(株主資本)は、大きく「元手」と「稼いだ利益」に分かれます。
純資産(株主資本)の内訳
| 区分 | 中身 | 例 |
|---|---|---|
| 資本金・資本剰余金 | 株主が払い込んだ元手 | 資本金/資本準備金 |
| 利益剰余金 | 会社が稼いでためた利益 | 利益準備金/任意積立金/繰越利益剰余金 |
利益剰余金は、さらに「利益準備金」と「その他利益剰余金」に分かれます。繰越利益剰余金は、このうち「その他利益剰余金」に含まれます。
- 利益準備金:会社法で積立が義務づけられた準備金(すぐには取り崩せない)
- 任意積立金:会社が自主的に目的を決めて積み立てた利益
- 繰越利益剰余金:使い道が決まっていない、残りの利益
つまり繰越利益剰余金は、利益剰余金のなかでもっとも自由度が高い「余り」の部分にあたります。
当期純利益を繰越利益剰余金に振り替える決算仕訳

決算では、その期の利益・費用をすべて「損益」勘定に集めて当期純利益を計算し、その金額を繰越利益剰余金へ振り替えます。当期純利益が3,000,000円だった場合の仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 損益 | 3,000,000 | 繰越利益剰余金 | 3,000,000 | 当期純利益の振替 |
この仕訳で、繰越利益剰余金が3,000,000円増えます。反対に、当期純損失(赤字)のときは逆仕訳になり、繰越利益剰余金が減ります。損失が1,000,000円なら次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 1,000,000 | 損益 | 1,000,000 | 当期純損失の振替 |
「損益」勘定は、収益と費用を集計して当期純利益(純損失)を確定させるための科目です。損益計算書に載る科目全体の流れは損益の勘定科目はどれ?損益計算書の科目一覧と損益勘定の仕訳で整理しています。
配当・処分の仕訳|利益準備金の積立(会社法)

株主総会で配当を決めると、繰越利益剰余金を取り崩して配当に充てます。このとき会社法で、配当額の10分の1を「利益準備金」として積み立てることが求められます(参考: e-Gov法令検索「会社法」第445条第4項)。
配当を1,000,000円出す場合、利益準備金100,000円(配当額の10分の1)を積み立てます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 繰越利益剰余金 | 1,100,000 | 未払配当金 | 1,000,000 | 株主への配当 |
| 利益準備金 | 100,000 | 会社法の準備金積立 |
繰越利益剰余金は、配当1,000,000円と利益準備金100,000円の合計1,100,000円だけ減ります。なお、この準備金の積立は資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまでで足り、それを超えていれば追加の積立は不要です。
配当金を受け取った側(株主)の処理は、送り手とは別の科目になります。詳しくは受取配当金の勘定科目と仕訳|源泉徴収・益金不算入をご覧ください。
繰越利益剰余金がマイナス(欠損)になったとき
赤字が続いて損失が利益を上回ると、繰越利益剰余金はマイナス(欠損)になります。この状態を「繰越損失」や「欠損金」と呼ぶこともあります。
貸借対照表では、マイナスの繰越利益剰余金を△(三角)付きの金額で表示します。純資産の部から差し引く形になり、純資産全体を押し下げます。
| 状態 | B/S純資産の部での表示 |
|---|---|
| 利益が積み上がっている | 繰越利益剰余金 3,000,000 |
| 赤字で欠損 | 繰越利益剰余金 △1,000,000 |
マイナスを解消するには、その後の期に利益を出して積み増すか、資本金や資本準備金を取り崩して穴埋めする「欠損てん補」を行います。純資産がマイナスになった状態は債務超過につながるため、金融機関の融資審査でも重視されるポイントです。
繰越利益剰余金の求め方(計算式)
期末の繰越利益剰余金は、次の式で計算できます。
繰越利益剰余金の計算式
| 項目 | 増減 |
|---|---|
| 期首の繰越利益剰余金 | + |
| 当期純利益 | +(純損失なら −) |
| 任意積立金の取り崩し | + |
| 配当金 | − |
| 利益準備金・任意積立金の積立 | − |
たとえば、期首2,000,000円・当期純利益3,000,000円・配当1,000,000円・利益準備金の積立100,000円なら、期末は3,900,000円(2,000,000+3,000,000−1,000,000−100,000)になります。
この残高は、決算書の「株主資本等変動計算書」でも増減の内訳として示されます。
個人事業主に繰越利益剰余金はない|元入金との違い

繰越利益剰余金は法人(株式会社など)だけが使う科目です。個人事業主の帳簿には登場しません。
個人事業主の場合、1年間の利益は「元入金」という科目に取り込まれ、翌期首に洗い替えられます。純資産の考え方は似ていますが、科目名も処理も異なります。
| 区分 | 利益をためる科目 | 準備金の積立 |
|---|---|---|
| 法人 | 繰越利益剰余金 | 会社法で義務(配当時) |
| 個人事業主 | 元入金 | なし |
法人と個人で純資産の呼び方が変わる理由や、元入金の期首洗い替えの仕組みは元入金とは?個人事業主の計算方法・期首の洗替と資本金との違いで数値例つきに解説しています。
よくある間違いと注意点
繰越利益剰余金の処理で誤りやすいポイントを整理します。いずれも純資産の金額や配当実務に直結します。
- 当期純利益を「利益剰余金」や「資本金」に直接足してしまう
- 配当時に利益準備金の積立(10分の1)を忘れる
- マイナスの繰越利益剰余金を無理に0にしようとする
- 個人事業主の帳簿で「繰越利益剰余金」を使ってしまう
間違い1:利益を資本金に混ぜる
当期純利益は、必ず「損益」勘定から繰越利益剰余金へ振り替えます。株主の元手である資本金に足してはいけません。元手(資本)と稼いだ利益(利益剰余金)は区別します。
間違い2:利益準備金の積立を忘れる
配当をするときは、原則として配当額の10分の1を準備金として積み立てます(上限に達している場合を除く)。忘れると会社法違反になり、決算書の純資産の内訳も誤ります。
間違い3:マイナスを無理に消す
赤字による欠損は、実態としてマイナスのまま表示します。安易に他の科目で穴埋めして0に見せると、財政状態を正しく伝えられません。欠損てん補は所定の手続きで行います。
間違い4:個人事業主で使う
個人事業主の帳簿には繰越利益剰余金はありません。利益は「元入金」に取り込みます。会計ソフトの科目選択でも、法人用と個人用を混同しないよう注意します。
よくある質問
繰越利益剰余金の処理でつまずきやすい5問を整理します。
Q1:繰越利益剰余金はどの区分の勘定科目ですか?
貸借対照表の純資産の部・株主資本・利益剰余金に属します。利益剰余金のうち「その他利益剰余金」に含まれ、会社が稼いでためた利益の使い道が決まっていない部分を表します。
Q2:当期純利益はどう繰越利益剰余金に振り替えますか?
決算で「損益」勘定に集計した当期純利益を、借方 損益/貸方 繰越利益剰余金で振り替えます。当期純損失のときは逆仕訳になり、繰越利益剰余金が減ります。
Q3:配当のときに利益準備金は必ず積み立てますか?
原則として、配当額の10分の1を積み立てます。ただし、資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達している場合は、追加の積立は不要です。会社法第445条に定められています。
Q4:繰越利益剰余金がマイナスだとどうなりますか?
赤字が積み重なると繰越利益剰余金はマイナス(欠損)になり、貸借対照表では△付きで表示します。純資産を押し下げ、大きくなると債務超過につながります。その後の利益や欠損てん補で解消します。
Q5:個人事業主にも繰越利益剰余金はありますか?
ありません。繰越利益剰余金は法人特有の科目です。個人事業主の場合、1年間の利益は「元入金」に取り込まれ、翌期首に洗い替えられます。科目も処理も法人とは異なります。
まとめ:繰越利益剰余金は「稼いだ利益の受け皿」
最後に、繰越利益剰余金の勘定科目と仕訳のポイントを整理します。
- 繰越利益剰余金は純資産(株主資本)の利益剰余金に属する
- 決算で当期純利益を「損益」勘定から振り替えて増やす
- 配当時は配当額の10分の1を利益準備金に積み立てる(会社法・上限あり)
- 赤字が重なるとマイナス(欠損)になり、B/Sでは△表示
- 個人事業主はこの科目を使わず「元入金」で利益を取り込む
繰越利益剰余金は、会社が稼いだ利益の増減を受け止める「受け皿」の科目です。決算での当期純利益の振替、配当時の準備金積立、赤字によるマイナス表示――この3つの動きをおさえれば、純資産の変化を読み解けます。配当や欠損てん補は会社法の手続きが関わるため、金額が大きいときや判断に迷うときは、税理士・公認会計士に相談すると確実です。
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免責事項
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