資産除去債務の仕訳と勘定科目|負債計上・利息費用・減価償却をやさしく解説

資産除去債務の仕訳は、将来の除去費用を現在価値に割り引いて「資産除去債務」(負債)で計上し、同額を有形固定資産の取得価額に上乗せするのが基本です。企業会計基準第18号にもとづき、毎期「時の経過による利息費用」と「上乗せ分の減価償却費」を計上します。上場企業や会社法上の大会社が対象で、中小企業(中小会計要領の適用)は原則として計上しません。

「どの勘定科目を使うのか」「取得時・決算時・除去時で仕訳がどう変わるのか」「中小企業でも処理が必要か」まで、数値例で迷わないように整理します。

この記事でわかること

  • 資産除去債務は負債(固定負債)で計上し、同額を有形固定資産に上乗せするという結論と根拠
  • 取得時・毎期決算・除去時の仕訳の具体例(割引現在価値・利息費用・減価償却)
  • 時の経過による利息費用は、割引率を使って毎期どう計算するか
  • 見積りが変わったときのキャッシュ・フロー見積法の考え方
  • 中小企業(中小会計要領)は原則として計上不要という実務上の線引き

公的情報源: 企業会計基準委員会「企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準」(参照)/中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」(参照

結論を先に書きます

資産除去債務とは、有形固定資産を将来撤去するときに法令や契約で義務づけられる支出を、現在価値に割り引いて負債計上したものです。勘定科目は「資産除去債務」で、貸借対照表の固定負債に載せます。

同時に、その割引後の金額を有形固定資産の取得価額に上乗せします。上乗せ分は耐用年数にわたって減価償却し、負債側は毎期「利息費用」を足していきます。

この記事の要点
  • 負債の勘定科目は「資産除去債務」(固定負債)。将来の除去費用を現在価値で計上
  • 同額を有形固定資産に上乗せし、耐用年数で減価償却する
  • 毎期、割引率を使って「利息費用」を負債へ加算(時の経過による調整)
  • 除去時は、実際の支出と債務残高の差額(履行差額)を損益に計上
  • 対象は上場企業・大会社など。中小会計要領の中小企業は原則計上しない

目次

資産除去債務とは|企業会計基準第18号が定める負債

資産除去債務とは、有形固定資産の取得・建設・使用によって生じ、その資産を除去するときに法令または契約で果たすべき義務がある支出を、現在価値で見積もって計上する負債の勘定科目です。

たとえば、借りた店舗に内装を施した場合、退去時に原状回復(内装の撤去)が契約で義務づけられていることがあります。この「将来必ず出ていく撤去費用」を、資産を使い始めた時点で負債として認識するのが資産除去債務の考え方です。

このルールは、企業会計基準委員会が2008年に公表した「企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準」で定められています。目的は、将来の除去コストを先送りせず、資産の使用と対応させて費用配分することにあります。

資産除去債務にあたる主な例

場面除去義務の内容
賃借した店舗・オフィスの内装退去時の原状回復(内装撤去)
定期借地上の建物契約満了時の建物解体・土地の返還
アスベストを含む建物法令で義務づけられた除去・処理
一定の機械装置・設備使用後の撤去・有害物質の除去

ポイントは、「法令または契約で撤去が義務づけられている」ことです。単に「いずれ壊すつもり」という自発的な計画だけでは、資産除去債務にはあたりません。

資産除去債務の会計処理は4ステップ

資産除去債務は取得時に現在価値で負債計上し同額を資産に上乗せ、毎期利息費用と減価償却で費用化する4ステップの流れ図
図:資産除去債務は取得時に負債と資産を同額で立て、毎期の利息費用と減価償却で費用配分する

資産除去債務の処理は、次の4つの流れで進みます。取得時に負債と資産を同時に立て、あとは毎期の決算で少しずつ費用にしていくイメージです。

  1. 将来の除去費用を見積もり、現在価値に割り引いて負債計上する
  2. 同額を有形固定資産の取得価額に上乗せする
  3. 毎期、時の経過による「利息費用」を負債に加算する
  4. 上乗せした資産分を耐用年数にわたって減価償却する

以下では、次の前提で数値例を追いかけます。

前提となる数値例

項目金額・条件
除去費用の見積額100,000円
割引率年3.0%
使用期間(耐用年数)5年
割引現在価値100,000円 ÷ 1.03⁵ ≒ 86,261円

割引現在価値とは、将来支払う100,000円を「今の価値」に直した金額です。5年後の100,000円は、金利分を差し引くと今なら約86,261円に相当します。この86,261円を、負債と資産の両方に計上します。

資産除去債務の仕訳例|取得時・決算時・除去時

取得時は借方に建物附属設備86,261円、貸方に資産除去債務86,261円を計上するT字勘定図
図:取得時は除去費用の現在価値を有形固定資産に上乗せし、同額を資産除去債務(負債)で計上する

まず取得時です。本体の固定資産を取得する仕訳とは別に、除去費用の現在価値86,261円を「有形固定資産」に上乗せし、同額を「資産除去債務」として負債計上します。

借方金額貸方金額摘要
建物附属設備86,261資産除去債務86,261除去費用の現在価値を上乗せ

この「建物附属設備」は、本体の取得価額(たとえば1,000,000円)とは別に、除去費用分だけを追加計上したものです。結果として、資産の帳簿価額は本体+除去費用分になります。

決算時①|時の経過による利息費用

決算時は借方に利息費用2,588円、貸方に資産除去債務2,588円を計上し負債残高を積み増すT字勘定図
図:毎期の決算で残高×割引率の利息費用を計上し、資産除去債務を積み増していく

決算では、資産除去債務の残高に割引率を掛けた「利息費用」を負債に足します。1年目は、86,261円 × 3% = 2,588円です。

借方金額貸方金額摘要
利息費用2,588資産除去債務2,588時の経過による調整額

この利息費用は、企業会計基準第18号(2008年公表)では、対応する有形固定資産の減価償却費と同じ区分(販売費及び一般管理費など)に含めて表示します。年を追うごとに負債残高が増え、5年後にはちょうど見積額100,000円へ近づきます。

決算時②|上乗せ分の減価償却

資産に上乗せした86,261円は、耐用年数5年で減価償却します。定額法なら、86,261円 ÷ 5年 = 17,252円(1年あたり)です。

借方金額貸方金額摘要
減価償却費17,252減価償却累計額17,252除去費用上乗せ分の償却

減価償却の基本的な仕組みは減価償却費・減価償却累計額の勘定科目と仕訳|直接法・間接法の違いで整理しています。

除去時|履行差額を損益に

実際に撤去したときは、資産除去債務(このとき残高は見積額の100,000円)を取り崩し、実際に支払った撤去費用との差額を「履行差額」として損益に計上します。撤去費用が105,000円だった場合の仕訳です。

借方金額貸方金額摘要
資産除去債務100,000現金預金105,000実際の撤去費用を支払
履行差額5,000見積差額を損益に

時の経過による利息費用の計算方法

利息費用は、その期の期首の資産除去債務残高 × 割引率で求めます。取得後、負債残高は次のように積み上がっていきます。

経過年期首残高利息費用(×3%)期末残高
1年目86,2612,58888,849
2年目88,8492,66591,514
3年目91,5142,74594,259
4年目94,2592,82897,087
5年目97,0872,913100,000

5年かけて負債残高が見積額100,000円に一致するのがポイントです。割引率は、リスクフリーの利率(国債利回りなど)を基礎に決めます。この利息費用の考え方は、経過勘定でおなじみの未払費用の決算仕訳と同じく、「時間の経過に応じて費用を認識する」発想です。

見積りが変わったとき|キャッシュ・フロー見積法

除去費用の見積りは、あとから物価や法令の変化で見直されることがあります。この場合はキャッシュ・フロー見積法で、見積りの変更が生じた期に、増減分を調整します。

  • 見積額が増えたとき → 増加分を、その時点の割引率で現在価値にし、資産除去債務と有形固定資産の帳簿価額を増やす
  • 見積額が減ったとき → 減少分を、負債計上時の割引率で割り引いて、両方を減らす

見積りの変更は「過去の誤りの修正」ではなく、将来に向けた見直しとして処理する点が特徴です。以後の減価償却や利息費用は、変更後の金額をもとに計算し直します。

中小企業は資産除去債務を計上しない(実務)

資産除去債務は上場企業や大会社は企業会計基準第18号で計上必要、中小会計要領の中小企業や個人事業主は原則不要という比較図
図:資産除去債務の計上は適用する会計基準で決まり、中小企業・個人事業主は原則不要

資産除去債務の計上が求められるのは、上場企業や会社法上の大会社など、企業会計基準を適用する会社です。中小企業の多くが採用する「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」では、資産除去債務の計上は求められていません(参考: 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」)。

区分資産除去債務の計上根拠
上場企業・会社法上の大会社必要企業会計基準第18号
中小会計要領を適用する中小企業原則不要中小会計要領(重要性が乏しい)
個人事業主不要企業会計基準の対象外

そのため、多くの中小企業や個人事業主は、退去時に実際に撤去費用を払ったタイミングで「修繕費」などとして費用処理すれば足ります。原状回復と資本的支出の線引きは修繕費と資本的支出の違いと境界線もあわせてご確認ください。

なお、店舗を借りるときに預けた敷金は資産除去債務とは別物で、資産として計上します。処理は敷金の勘定科目は?差入保証金と敷引・償却の仕訳で解説しています。

税務上の扱い|計上時点では損金にならない

税務では、資産除去債務を負債計上した時点や、利息費用を計上した時点では損金として認められません。減価償却費のうち本体分は損金になりますが、除去費用の上乗せ分の償却費や利息費用は、会計と税務で扱いが分かれます。

そのため、法人税の申告では別表による調整(加算・減算)が必要になります。実際に撤去費用を支出した事業年度に、税務上の損金として認識されるのが原則です。会計と税務のズレが大きい論点のため、判断に迷う場合は顧問税理士に確認するのが安全です。

よくある間違いと注意点

実務で誤りやすいポイントを整理します。いずれも決算書の負債・費用の金額に直結します。

  1. 自発的な撤去計画を資産除去債務にしてしまう(法令・契約の義務が必要)
  2. 除去費用を現在価値に割り引かず、見積額そのままで計上する
  3. 利息費用を「支払利息」で処理してしまう
  4. 中小企業なのに無理に資産除去債務を計上する

間違い1:義務のない撤去計画を計上する

資産除去債務は、法令または契約による除去義務が前提です。「古くなったら壊す予定」という自発的な意思だけでは計上できません。

間違い2:割引計算をしない

将来の除去費用は、必ず現在価値に割り引いて計上します。見積額100,000円をそのまま負債にすると、負債も資産も過大になります。

間違い3:利息費用を支払利息にする

時の経過による調整額は、勘定科目としては「利息費用」で処理し、表示は減価償却費と同じ区分にまとめます。借入の「支払利息」とは性質が異なります。

間違い4:中小企業で無理に計上する

中小会計要領を適用する中小企業では、原則として計上不要です。重要性が乏しい場合まで計上すると、かえって決算書が複雑になります。

よくある質問

資産除去債務の処理でつまずきやすい5問を整理します。

Q1:資産除去債務はどの勘定科目に分類されますか?

貸借対照表の固定負債に「資産除去債務」として計上します。将来の除去費用を現在価値に割り引いた金額で計上し、同額を有形固定資産の取得価額に上乗せします。

Q2:資産除去債務の利息費用はどう計算しますか?

期首の資産除去債務残高 × 割引率で計算します。たとえば残高86,261円・割引率3%なら、1年目の利息費用は2,588円です。毎期積み上げ、除去予定時には見積額に一致します。

Q3:中小企業でも資産除去債務を計上する必要はありますか?

原則として不要です。中小企業の多くが採用する中小会計要領では計上を求めていません。実際に撤去費用を支払った時に、修繕費などで費用処理すれば足ります。

Q4:敷金や保証金は資産除去債務になりますか?

なりません。差し入れた敷金・保証金は「敷金」「差入保証金」などの資産で計上します。資産除去債務は、退去時に自社が負担する撤去費用の義務を負債計上するもので、性質が異なります。

Q5:資産除去債務を計上しても、すぐに損金になりますか?

なりません。負債計上や利息費用の計上時点では税務上の損金と認められず、別表調整が必要です。実際に撤去費用を支出した事業年度に損金として認識されるのが原則です。

まとめ:資産除去債務は「負債+資産上乗せ」で処理する

最後に、資産除去債務の勘定科目と仕訳のポイントを整理します。

この記事のまとめ
  • 負債の勘定科目は「資産除去債務」(固定負債)。将来の除去費用を現在価値で計上
  • 同額を有形固定資産に上乗せし、耐用年数で減価償却する
  • 毎期、割引率で「利息費用」を負債に加算(時の経過による調整)
  • 除去時は、実際の支出と債務残高の差額(履行差額)を損益に計上
  • 対象は上場企業・大会社など。中小会計要領の中小企業は原則計上しない

資産除去債務は、「将来の撤去費用を、資産を使うあいだに少しずつ費用化する」ための仕組みです。取得時に負債と資産を同額で立て、毎期の利息費用と減価償却で費用配分する流れをおさえれば、複雑に見える仕訳も整理できます。上場・非上場や適用基準によって要否が変わるため、自社がどの基準を採用しているかを確認のうえ、判断に迷う場合は税理士に相談すると確実です。

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免責事項

※本記事は2026年時点の公開情報をもとに勘定科目の一般的な考え方を整理したものです。会計基準・税制は改正や個別事情により異なります。個別の会計処理・申告判断は、最新の企業会計基準委員会・中小企業庁・国税庁の公式情報をご確認のうえ、税理士・公認会計士など有資格者にご相談ください。


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この記事を書いた人

会計事務所で10年以上、法人や個人事業主の帳簿づけと税務申告の手伝いをしてきたTanakaです。決算が近づくと、経営者から「この支払いはどの科目で処理すればいいですか」という電話を何度も受けました。答えは業種や会社の規模で変わります。そこを一つずつ、相手に合わせて説明してきました。

独立してからは、中小企業の経理担当者向けの研修や、freee・マネーフォワード・弥生の科目設定の相談にも応じています。教科書の説明は抽象的で、現場では「とりあえず雑費」で片づけてしまうことも少なくありません。このサイトでは、勘定科目の選び方の判断軸を、具体例をそえて整理しています。最終的な税務判断は、顧問税理士にご相談ください。

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