貸倒引当金繰入の勘定科目は費用で、売掛金など営業債権分は販売費及び一般管理費、貸付金など営業外債権分は営業外費用に表示します。相手勘定は資産のマイナスとなる貸倒引当金(評価勘定)、戻すときは収益の貸倒引当金戻入を使い、この3勘定と洗替法・差額補充法の違いを仕訳例で整理します。
この記事でわかること
- 貸倒引当金繰入は費用、相手勘定の貸倒引当金は資産のマイナス(評価勘定)、戻入は収益という3勘定の役割
- 繰入の表示区分が販売費及び一般管理費と営業外費用に分かれる理由(債権の性質で決まる)
- 毎期の残高を全額入れ替える洗替法と、差額だけ動かす差額補充法の違い(損益への影響は同じ)
- 繰入・戻入・取り崩しの仕訳例と、貸倒損失との使い分け
- 税務上、損金算入できる法人が限られるという注意点
公的情報源: 国税庁「貸倒引当金」タックスアンサーNo.5500(参照)/国税庁「中小企業等の貸倒引当金の特例」No.5501(参照)
結論から先に
「貸倒引当金繰入」で処理する勘定科目は、費用です。相手勘定には資産のマイナスを表す「貸倒引当金」を置きます。この組み合わせがすべての起点になります。
迷いやすいのは、繰入をどの区分(販管費か営業外費用か)に載せるかという点。ここは債権の性質で決まります。売掛金や受取手形のような営業債権なら販売費及び一般管理費、貸付金のような営業外債権なら営業外費用です。
もう一つの分かれ目が、毎期の処理方法。前期分を全額戻してから入れ直す洗替法と、差額だけを動かす差額補充法の2つがあります。どちらを選んでも、損益に与える金額は同じになります。
- 繰入は費用/戻入は収益/貸倒引当金は資産のマイナス。まず3勘定を役割で覚える
- 繰入の表示区分は債権の種類で決まる(営業債権=販管費、営業外債権=営業外費用)
- 洗替法と差額補充法は手続きが違うだけで、最終的な引当金残高も損益も一致する
- 実際に貸し倒れたら、まず引当金を取り崩し、足りない分だけ貸倒損失を計上する
貸倒引当金繰入の勘定科目は「費用」|3勘定を役割で押さえる
貸倒引当金繰入とは、将来回収できない見込みの債権に備えて計上する費用の勘定科目です。まずこの1点を押さえます。
そのうえで実務では、立場の違う3つの勘定科目が登場します。名前が似ていて混同しやすいので、「資産・費用・収益」という役割とセットで覚えるのが近道です。
貸倒引当金まわりの3勘定
| 勘定科目 | 5区分 | 役割 |
|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 費用 | 引当金を積むときの経費。当期の利益を減らす |
| 貸倒引当金 | 資産のマイナス(評価勘定) | 決算書で売掛金などのすぐ下にマイナス表示される残高 |
| 貸倒引当金戻入 | 収益 | 前期の引当金を戻すときの収益。当期の利益を増やす |
繰入は費用なので、計上すると当期の利益が下がります。逆に戻入は収益なので、利益が上がります。この2つは後述する決算処理で毎期ペアになって出てきます。
相手勘定の「貸倒引当金」は、プラスの資産ではありません。売掛金や受取手形の残高から差し引く形で表示される、資産のマイナス(評価勘定)です。減価償却の「減価償却累計額」と同じ立ち位置と考えると分かりやすいでしょう。評価勘定の考え方は評価勘定とは何かの解説で詳しく整理しています。
なお、名前の近い「貸倒損失」は別物です。貸倒損失は、実際に回収不能が確定したときに使う費用。「これから備える=引当金(繰入)」「もう損が確定した=貸倒損失」と、時間軸で切り分けると混同しません。5区分そのものの基礎は勘定科目とは(5区分)の記事もあわせてご覧ください。
繰入・戻入の表示区分|販管費・営業外費用・営業外収益の判定
繰入と戻入は、金額の大小で「どちらを使うか」が決まり、債権の性質で「どの区分に載せるか」が決まります。この2段階を分けて考えます。

まず、繰入か戻入かの判定。決算日に、当期末で必要な引当金の見積額と、前期末から残っている引当金残高を比べます。見積額が残高より多ければ繰入、少なければ戻入です(同額なら仕訳なし)。
次に、その繰入をどの区分に表示するか。ここが多くの解説で省かれがちな、勘定科目選びの実務ポイントです。判定基準は「その引当金が、どんな債権に対するものか」です。
債権の種類と表示区分
| 債権の種類 | 例 | 繰入の表示区分 |
|---|---|---|
| 営業債権 | 売掛金・受取手形など本業の取引で生じた債権 | 販売費及び一般管理費 |
| 営業外債権 | 貸付金など本業以外で生じた債権 | 営業外費用 |
本業の売上から生まれた売掛金や受取手形への繰入は、販売費及び一般管理費です。一方、取引先への貸付金のように本業以外で生じた債権への繰入は、営業外費用に載せます。
戻入の側は、少し扱いが分かれます。洗替法で戻入額と繰入額を相殺し、純額で表示するのが会計上の原則的な考え方です。この場合、戻入が繰入を上回ったときの差額を、対応する区分(販管費や営業外)のマイナス、または収益として表示します。
ただし中小企業の実務や税務処理では、戻入を「貸倒引当金戻入(益)」として総額で計上し、繰入と両建てにする方法も広く行われています。自社がどちらの方法で表示するかは、継続して同じ扱いにするのが原則です。
差額補充法と洗替法の違い|損益への影響は同じ
決算での引当金の入れ直し方には、洗替法と差額補充法の2つがあります。手続きは違いますが、最終的な引当金残高も、損益に与える金額も一致します。まずここを理解しておくと迷いません。
2つの処理方法の比較
| 観点 | 洗替法 | 差額補充法 |
|---|---|---|
| 考え方 | 前期分をいったん全額戻し、今期分を新たに計上 | 前期残高と今期見積額の差額だけを調整 |
| 仕訳の回数 | 戻入と繰入の2本立て(総額) | 原則1本(差額のみ) |
| 使う勘定 | 貸倒引当金戻入+貸倒引当金繰入 | 貸倒引当金繰入(不足時)/貸倒引当金戻入(超過時) |
| 損益への影響 | 差額分だけ費用が動く | 差額分だけ費用が動く(同じ) |
たとえば前期の引当金が10万円、今期の見積額が12万円だとします。洗替法なら、まず10万円を全額戻入し、次に12万円を繰入。損益に効くのは差額の2万円です。差額補充法なら、不足する2万円だけを直接繰り入れます。
どちらの方法でも、期末の引当金残高は12万円、当期に増える費用は2万円で一致します。会計ソフトによって初期設定が異なるため、自社がどちらで処理しているかを一度確認しておくと安心です。方法は毎期継続して適用するのが原則です。
仕訳例で見る繰入・戻入・取り崩し
ここからは具体的な仕訳で確認します。金額はすべて例示です。実際の見積額は自社の債権残高にもとづいて算定します。
決算で新たに繰り入れる(初年度など)
前期の引当金がなく、今期末に12万円の貸倒引当金を計上するケースです。

| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 120,000 | 貸倒引当金 | 120,000 |
摘要は「決算・貸倒引当金の設定」。売掛金などが営業債権であれば、この繰入120,000円は販売費及び一般管理費に表示します。
洗替法で入れ替える(前期分あり)
前期の引当金10万円があり、今期末の見積額が12万円のケース。まず前期分を戻し、次に今期分を立てます。
手順1:前期分を戻し入れる
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 100,000 | 貸倒引当金戻入 | 100,000 |
手順2:今期分を繰り入れる
戻入10万円・繰入12万円なので、損益への純額は差額の2万円の費用増。総額で両建てしても、効く金額は差額だけという点は変わりません。
差額補充法で調整する
同じ条件(前期10万円・今期12万円)を差額補充法で処理すると、不足する2万円だけを繰り入れます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金繰入 | 20,000 | 貸倒引当金 | 20,000 |
見積額が前期を下回る場合は、超過分を「貸倒引当金/貸倒引当金戻入」で戻します。仕訳の本数が少なく、実務では差額補充法もよく使われます。
実際に貸し倒れたとき(取り崩し)
取引先が倒産し、売掛金5万円が回収不能になったケース。すでに引当金を立てているなら、まず引当金を取り崩します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 50,000 | 売掛金 | 50,000 |
摘要は「◯◯社倒産による回収不能」。すでに費用化していた引当金を充てるため、この期に新たな費用は発生しません。引当金が足りない場合は、不足分を「貸倒損失」として追加計上します。
税務上の注意|損金算入は中小法人などに限られる
会計上は貸倒引当金を計上できても、税務上そのまま損金(費用)として認められるとは限りません。ここは決算前に必ず確認したい点です。
現在、貸倒引当金の繰入額を損金算入できるのは、資本金1億円以下の中小法人や、銀行・保険会社など一定の法人に限られています(法人税法第52条)。かつては多くの法人で使えた制度ですが、税制改正で対象が絞られました。適用の可否は国税庁タックスアンサーNo.5500で確認できます。
損金にできる金額にも上限があります。中小企業は、債権全体にまとめて率をかける「一括評価」で、業種ごとに定められた法定繰入率を使えます(青色申告など一定の要件あり)。危険な取引先だけを個別に見積もる「個別評価」と併用も可能です。
法定繰入率の業種別の数値や、一括評価・個別評価の使い分け、計算式は貸倒引当金の計算方法と法定繰入率の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
なお、上限を超えて繰り入れた分は、税務上は当期の損金になりません。会計上の費用と税務上の損金がずれる場合があるため、最終的な判断は顧問税理士に確認することをおすすめします。
よくある質問
貸倒引当金繰入の勘定科目について、経理実務でよく寄せられる質問を整理しました。
Q1:貸倒引当金繰入はどの勘定科目に分類されますか?
費用です。相手勘定には資産のマイナスである「貸倒引当金」を置きます。表示区分は債権の種類で分かれ、売掛金や受取手形など営業債権への繰入は販売費及び一般管理費、貸付金など営業外債権への繰入は営業外費用に載せます。
Q2:貸倒引当金繰入と貸倒損失はどう違いますか?
時間軸が違います。貸倒引当金繰入は「これから回収不能になりそう」という見積り段階で使う費用、貸倒損失は「回収不能が確定した」段階で使う費用です。引当金を立てている債権が実際に焦げ付いたときは、まず引当金を取り崩し、足りない分だけ貸倒損失を計上します。
Q3:貸倒引当金戻入はどの区分に表示しますか?
洗替法で繰入額と相殺し、純額で表示するのが会計上の原則的な考え方です。この場合、戻入が上回った差額を対応区分のマイナスや収益として示します。一方、中小企業の実務では戻入を「貸倒引当金戻入(益)」として総額で計上する方法も広く行われます。いずれも継続して同じ扱いにするのが原則です。
Q4:洗替法と差額補充法、どちらを選べばいいですか?
どちらでも構いませんが、毎期継続して同じ方法を適用するのが原則です。洗替法は前期分を全額戻してから今期分を立て直す方法、差額補充法は差額だけを動かす方法です。最終的な引当金残高も損益への影響も一致するため、会計ソフトの設定や顧問税理士の方針に合わせて選びます。
Q5:貸倒引当金繰入は必ず計上しないといけませんか?
会計上は任意です。ただし売掛金の残高が大きい会社ほど、回収リスクを決算書に反映する意味で計上するメリットがあります。税務上の損金算入は資本金1億円以下の中小法人など一定の法人に限られるため、節税を目的とする場合は自社が対象かどうかを先に確認してください。
まとめ
貸倒引当金繰入は、将来の貸し倒れに備えるための費用の勘定科目です。3勘定の役割と表示区分さえ押さえれば、決算仕訳は一本道になります。最後に要点を整理します。
- 繰入は費用、貸倒引当金は資産のマイナス、戻入は収益
- 繰入の表示区分は債権の種類で決まる(営業債権=販管費、営業外債権=営業外費用)
- 洗替法と差額補充法は手続きが違うだけで、損益への影響は同じ
- 実際に貸し倒れたら、まず引当金を取り崩し、不足分を貸倒損失に計上
- 税務上の損金算入は中小法人などに限られる。上限や法定繰入率は要確認
勘定科目の役割と表示区分を分けて理解しておくと、決算のたびに迷わなくなります。税務上の取り扱いは年度や事業内容で変わることがあるため、最終判断は顧問税理士にご相談ください。
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※本記事は会計・税務の一般的な情報を整理したものです。貸倒引当金の損金算入要件・法定繰入率・表示区分の取り扱いは事業内容・法人の区分・年度により異なる場合があるため、個別の判断は国税庁の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて税理士など有資格者へご相談ください。
