貸倒損失の勘定科目は費用で、売掛金や貸付金が回収不能になったときに使います。税務上そのまま損金にするには、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3類型(法律上・事実上・形式上の貸倒れ)のいずれかの要件を満たす必要があります。貸倒れに係る消費税額は7.8/110で控除でき、引当金の取り崩しとの関係、仕訳例まで整理します。
この記事でわかること
- 貸倒損失は回収不能が「確定」した債権を落とす費用で、将来に備える貸倒引当金とは時間軸が違うこと
- 税務上 損金にできる法人税基本通達の3類型(9-6-1 法律上/9-6-2 事実上/9-6-3 形式上)の要件
- 引当金がある場合・ない場合で変わる仕訳例(まず引当金を取り崩す)
- 売掛金が貸し倒れたときに使える貸倒れに係る消費税額の控除(7.8/110)の考え方
- 損金算入の時期や貸付金・関係会社債権で迷いやすい注意点
公的情報源: 国税庁「貸倒損失として処理できる場合」タックスアンサーNo.5320(参照)/国税庁「No.6367 貸倒れに係る税額の調整」(参照)
結論から先に
貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの債権が回収不能になったときに、その金額を費用として落とす勘定科目です。ポイントは、「もう回収できないと確定した」段階で使うという点にあります。
似た名前の貸倒引当金は、「これから焦げ付くかもしれない」と将来に備える見積もりです。貸倒損失は「実際に回収不能が確定した」直接償却。時間軸で区別すると混同しません。
ただし会計上で費用にできても、税務上そのまま損金として認められるとは限りません。法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3類型のいずれかに当てはまることが条件です。
- 貸倒損失は費用。回収不能が確定した売掛金・貸付金などを直接落とす
- 税務上の損金は3類型(法律上・事実上・形式上の貸倒れ)のいずれかの要件を満たすことが前提
- 引当金があるときはまず引当金を取り崩し、不足分だけを貸倒損失にする
- 課税売上の売掛金が貸し倒れたら、貸倒れに係る消費税額を控除できる場合がある
貸倒損失とは|回収不能が「確定」した債権を落とす費用
貸倒損失とは、回収できないことが確定した債権を、その金額だけ費用に振り替える勘定科目です。まずこの1点を押さえます。
対象になるのは、売掛金や受取手形といった営業債権のほか、貸付金や立替金などの営業外債権です。取引先の倒産や長期の未回収で、その債権が資産として残せなくなったときに使います。
混同しやすいのが貸倒引当金との違いです。両者は「損に備える段階」か「損が確定した段階」かで役割が分かれます。
貸倒引当金と貸倒損失の違い
| 観点 | 貸倒引当金(繰入) | 貸倒損失 |
|---|---|---|
| タイミング | 将来の回収不能に備える見積り段階 | 回収不能が確定した段階 |
| 5区分 | 繰入は費用/引当金は資産のマイナス | 費用 |
| 相手勘定 | 貸倒引当金(評価勘定) | 売掛金・貸付金など債権そのもの |
| 損の性質 | まだ確定していない見込み | 確定した実損 |
貸倒引当金は資産を減らす評価勘定という特殊な立ち位置でした。この考え方は評価勘定とは何かの解説で整理しています。備える側の計算・法定繰入率は貸倒引当金の計算方法の記事もあわせてご覧ください。5区分そのものの基礎は勘定科目とは(5区分)の記事で確認できます。
なお、貸倒損失を表示する区分は債権の性質で変わります。営業債権なら販売費及び一般管理費、営業外債権なら営業外費用、金額が大きく臨時性が高いものは特別損失に区分するのが一般的です。
貸倒損失を計上できる3要件|法人税基本通達9-6の3類型
税務上、貸倒損失を損金にできるのは、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3類型のいずれかに当てはまる場合とされています。会計上「回収できないから落とす」と判断しても、税務ではこの3つの型で判定します。

3つの型は、切り捨ての「根拠の強さ」で並べると理解しやすくなります。
3類型の判定基準
| 類型 | 通達 | 損金にできる主なケース | 損金算入の時期 |
|---|---|---|---|
| 法律上の貸倒れ | 9-6-1 | 更生計画・再生計画の認可、関係者協議での切捨て、書面による債務免除 | 切り捨てられた事業年度 |
| 事実上の貸倒れ | 9-6-2 | 資産状況・支払能力からみて債権の全額が回収不能と明らかなとき | 明らかになった事業年度 |
| 形式上の貸倒れ | 9-6-3 | 取引停止後1年以上未回収、または取立費用に満たない少額債権 | 損金経理をした事業年度 |
法律上の貸倒れ(9-6-1)は、更生計画認可の決定などで法的に債権が切り捨てられたケースです。切り捨てられた金額は、その事業年度に損金として処理します。
事実上の貸倒れ(9-6-2)は、債務者の資産状況などから全額が回収不能と明らかになったときです。担保があれば処分した後で判定し、一部だけの貸倒れは認められないとされる点に注意します。
形式上の貸倒れ(9-6-3)は、継続取引の停止後1年以上が経過しても弁済がない場合などです。この型では、備忘価額として1円を残して貸倒損失を計上します。適用は売掛債権に限られ、貸付金は対象外とされています。
いずれも、根拠となる資料(債務者の状況、取立ての経緯、免除通知など)を残しておくことが実務上は重要とされています。要件の当てはめは判断が分かれることも多いため、迷う場合は税理士に確認するのが安全です。
貸倒損失の仕訳例|引当金の取り崩しとの関係
ここからは仕訳で確認します。金額はすべて例示です。ポイントは、引当金があるかどうかで最初の一歩が変わることです。
まず、貸倒引当金がない(または不足している)場合の基本仕訳です。回収不能が確定した売掛金50万円を、そのまま費用に振り替えます。

| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 500,000 | 売掛金 | 500,000 |
摘要は「◯◯社倒産による回収不能」。営業債権であれば、この貸倒損失は販売費及び一般管理費に表示します。
次に、貸倒引当金を先に立てている場合です。このときは、いきなり貸倒損失を使いません。まず引当金を取り崩し、足りない分だけを貸倒損失にします。
引当金が十分にある場合
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 500,000 | 売掛金 | 500,000 |
すでに費用化していた引当金を充てるため、この期に新たな費用は発生しません。引当金がクッションとなって、倒産が起きた期の利益急減をやわらげます。
引当金が不足する場合(引当30万・貸倒50万)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 300,000 | 売掛金 | 500,000 |
| 貸倒損失 | 200,000 |
引当金30万円を先に取り崩し、不足する20万円だけを貸倒損失で計上します。「引当金→不足分は貸倒損失」という順番を覚えておくと、決算で迷いません。
貸倒れに係る消費税額の控除|売掛金が焦げ付いたとき
売掛金が貸し倒れたときは、消費税でも調整ができる場合があります。これが「貸倒れに係る消費税額の控除」(消費税法第39条)です。見落としやすい論点なので、確認しておきます。
仕組みはシンプルです。課税売上に対応する売掛金などが貸倒れになると、その中に含まれていた消費税額を、貸倒れが生じた課税期間の消費税額から控除できます。売上時にいったん納めた消費税を、回収できなかった分だけ後から取り戻すイメージです。
ただし、対象になる債権は限られます。
控除できる債権・できない債権
| 区分 | 例 | 消費税の控除 |
|---|---|---|
| 課税取引の売掛金等 | 商品販売・課税サービスの売掛金 | 控除できる |
| 非課税・不課税の債権 | 貸付金、利息、土地の売却代金など | 控除できない |
| 免税事業者だった期間の売上 | 課税事業者になる前の売掛金 | 控除できない |
控除できる消費税額は、貸倒れとなった金額(税込)に110分の7.8を掛けて計算します(標準税率10%の場合)。軽減税率8%の売掛金なら108分の6.24です。
たとえば税込55万円の売掛金が貸倒れになったなら、55万円 × 7.8/110 = 3万9,000円が控除の対象になります。会計上の貸倒損失(税込55万円)とは別に、消費税の申告書上で調整する点を押さえておきます。詳しい取扱いは国税庁タックスアンサーNo.6367で確認できます。
貸倒損失で迷いやすい注意点
最後に、実務でつまずきやすいポイントを整理します。貸倒損失は税務調査で否認されやすい項目とされているため、判断の根拠を意識しておくことが大切です。
- 損金算入の時期を間違えない:9-6-1〜9-6-3は、それぞれ損金にできる事業年度が決まっています。確定した年度を過ぎて計上すると、認められないことがあります。
- 売掛債権と貸付金を混同しない:形式上の貸倒れ(9-6-3)は売掛債権が対象で、貸付金には使えません。債権の種類で扱いが変わります。
- 一部だけの貸倒れは原則できない:事実上の貸倒れ(9-6-2)は、全額が回収不能であることが前提です。「半分だけ落とす」は認められにくいとされています。
- 関係会社・役員・親族への債権は慎重に:回収努力の実態が問われやすく、寄附金と見なされるリスクもあります。
- 証拠書類を残す:債務者の状況、督促や取立ての経緯、債務免除通知などを保存しておきます。
会計上の費用と税務上の損金がずれる場面が多い科目です。最終的な当てはめは、顧問税理士に確認することをおすすめします。
よくある質問
貸倒損失の勘定科目について、経理実務でよく寄せられる質問を整理しました。
Q1:貸倒損失はどの勘定科目に分類されますか?
費用です。相手勘定には、回収不能になった売掛金や貸付金などの債権そのものを置きます。表示区分は債権の性質で分かれ、営業債権は販売費及び一般管理費、営業外債権は営業外費用、金額が大きく臨時性の高いものは特別損失に区分するのが一般的です。
Q2:貸倒損失と貸倒引当金はどう違いますか?
時間軸が違います。貸倒引当金は「これから回収不能になりそう」という将来の見積りに備える科目、貸倒損失は「回収不能が確定した」段階で使う費用です。引当金を立てている債権が実際に焦げ付いたときは、まず引当金を取り崩し、足りない分だけ貸倒損失を計上します。
Q3:貸倒損失はいつでも計上できますか?
税務上そのまま損金にするには、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3の3類型のいずれかの要件を満たす必要があります。それぞれ損金にできる事業年度が決まっているため、確定した年度に計上するのが原則です。会計上の判断だけで自由に落とせるわけではありません。
Q4:売掛金が貸し倒れたら消費税はどうなりますか?
課税売上に対応する売掛金であれば、貸倒れに係る消費税額の控除(消費税法第39条)が使える場合があります。貸倒れとなった税込金額に110分の7.8(標準税率10%)を掛けた額を、貸倒れが生じた課税期間の消費税額から控除します。貸付金や非課税取引の債権は対象外です。
Q5:引当金があるのに全額を貸倒損失にしてもいいですか?
原則は引当金を先に取り崩します。貸倒引当金を立てている債権が焦げ付いたら、まず引当金を充て、引当金で足りない不足分だけを貸倒損失で計上します。引当金を無視して全額を貸倒損失にすると、費用が二重に見える処理になってしまいます。
まとめ
貸倒損失は、回収不能が確定した債権を落とすための費用の勘定科目です。備える側の貸倒引当金と役割を分けて理解すれば、決算で迷わなくなります。最後に要点を整理します。
- 貸倒損失は費用。回収不能が確定した売掛金・貸付金などを直接落とす
- 税務上の損金は法基通9-6-1〜9-6-3の3類型(法律上・事実上・形式上)が前提
- 引当金があるときはまず取り崩し、不足分だけを貸倒損失にする
- 課税売上の売掛金が貸し倒れたら7.8/110で消費税を控除できる場合がある
- 損金算入の時期・債権の種類・全額要件で否認されやすいので根拠を残す
貸倒損失は税務上の要件が細かく、年度や事業内容で取り扱いが変わることがあります。判断に迷ったときは、根拠資料をそろえたうえで顧問税理士にご相談ください。
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※本記事は会計・税務の一般的な情報を整理したものです。貸倒損失の損金算入要件・貸倒れに係る消費税額の控除の取り扱いは、債権の種類・事業内容・年度により異なる場合があります。個別の判断は国税庁の最新情報をご確認のうえ、必要に応じて税理士など有資格者へご相談ください。
