未成工事支出金の勘定科目は、完成前の工事にかかる材料費・労務費・外注費・経費の4つを集計しておく建設業の棚卸資産(資産)です。一般会計の「仕掛品」に相当し、工事が完成・引き渡した時点で全額を「完成工事原価」へ振り替えます。消費税は原価の支払時に課税仕入れとして扱います。
「未成工事支出金は費用なのか資産なのか」「いつ完成工事原価に振り替えるのか」という迷いを、建設業会計の仕組みと仕訳例で、判断できる基準に落とし込みます。
この記事でわかること
- 未成工事支出金は建設業の棚卸資産(資産)で、一般会計の「仕掛品」に相当するという結論
- 材料費・労務費・外注費・経費を集計し、完成・引渡し時に完成工事原価へ振り替える流れ
- 原価の計上時・完成時の仕訳の具体例(T字勘定つき)
- 未成工事受入金・完成工事未収入金など紛らわしい建設業科目との違い
- 消費税は原価の支払時に課税仕入れ、振替時は不課税という区分
公的情報源: 国土交通省「建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の勘定科目の分類」(参照)/企業会計基準委員会「収益認識に関する会計基準」(参照)
結論を先に書きます
未成工事支出金とは、まだ完成していない工事にかかった原価を集計しておく、建設業特有の棚卸資産(資産)です。一般の製造業でいう「仕掛品」とまったく同じ役割を持ちます。
工事の進行中は、材料費・労務費・外注費・経費を「未成工事支出金」に積み上げます。そして工事が完成して引き渡した時点で、集計した原価を全額「完成工事原価」へ振り替えます。
- 未成工事支出金は資産(棚卸資産)。工事中の原価を集計する箱で、費用ではない
- 一般会計の「仕掛品」に相当する建設業の科目
- 集計するのは材料費・労務費・外注費・経費の工事原価(販管費は含めない)
- 完成・引渡し時に全額を「完成工事原価」へ振り替える(費用化はこのタイミング)
- 消費税は原価の支払時に課税仕入れ、完成工事原価への振替は不課税
未成工事支出金とは|建設業の棚卸資産(一般会計の仕掛品)
未成工事支出金とは、完成前の工事にかかった原価を集計しておく建設業の勘定科目です。分類は貸借対照表の流動資産(棚卸資産)で、費用ではありません。
建設業では、1つの工事が数か月〜数年にわたることが珍しくありません。そのため、支払った原価をすぐ費用にすると、売上(完成工事高)が立つ前に費用だけが先行してしまいます。
これを防ぐため、完成までの原価をいったん資産として「未成工事支出金」に積み立てておき、売上と原価を同じ時期に対応させるのがねらいです。
一般会計との対応は、次のとおりです。建設業の科目は、法律で様式が定められています。
| 一般会計の科目 | 建設業会計の科目 | 分類 |
|---|---|---|
| 仕掛品 | 未成工事支出金 | 資産(棚卸資産) |
| 売上原価 | 完成工事原価 | 費用 |
| 売上高 | 完成工事高 | 収益 |
| 売掛金 | 完成工事未収入金 | 資産 |
| 買掛金 | 工事未払金 | 負債 |
| 前受金 | 未成工事受入金 | 負債 |
この勘定科目の名称は、建設業法施行規則の財務諸表様式(別記様式第十五号・十六号)で定められています(参考: 国土交通省「勘定科目の分類」)。建設業許可業者は、この様式で決算報告書を作成します。
なお、製造業の仕掛品と考え方は同じです。仕掛品側の処理は棚卸資産の勘定科目と仕訳|商品・製品・仕掛品の評価方法で整理しています。
未成工事支出金の仕訳|工事原価の集計から完成工事原価への振替

未成工事支出金の処理は、大きく2段階です。工事中は原価を集計し、完成したら費用へ振り替えます。
第1段階(工事中)は、材料費・労務費・外注費・経費が発生するたびに「未成工事支出金」の借方へ集計します。この段階では、まだ費用(完成工事原価)にはなりません。
第2段階(完成・引渡し)は、集計した未成工事支出金の残高を、全額「完成工事原価」へ振り替えます。ここで初めて費用になり、同時に計上する完成工事高(売上)と対応します。
集計する原価は、次の4区分が基本です。販売費及び一般管理費(本社の家賃・営業社員の給与など)は含めません。あくまで工事現場でかかる原価だけを集めます。
| 原価の区分 | 具体例 |
|---|---|
| 材料費 | 鉄骨・コンクリート・木材などの工事材料 |
| 労務費 | 現場作業員の賃金 |
| 外注費 | 下請業者への発注費用 |
| 経費 | 現場の水道光熱費・重機リース料・現場管理費 |
未成工事支出金の仕訳例|計上と振替の具体ケース

具体的な数字で、工事中の計上と完成時の振替を見ていきます。ある工事で、外注費40万円を下請業者に発注し、後日支払う(未払い)ケースからです。
ケース1:工事中に外注費を計上する
下請業者へ40万円の工事を発注し、代金は翌月払いとしました。原価はまだ資産なので、借方は「未成工事支出金」です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 400,000 | 工事未払金 | 400,000 | A工事 外注費 |
貸方の「工事未払金」は、建設業の買掛金にあたる負債です。詳しい使い分けは、この後のクラスタ記事(工事未払金)で扱います。
ケース2:材料費を現金で支払って計上する
工事材料30万円を現金で購入したケースです。こちらも借方は「未成工事支出金」に集計します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 300,000 | 現金 | 300,000 | A工事 材料費 |
ケース3:工事が完成し、完成工事原価へ振り替える

A工事が完成して引き渡しました。集計した未成工事支出金の残高(材料費・労務費・外注費・経費の合計100万円)を、全額「完成工事原価」へ振り替えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 完成工事原価 | 1,000,000 | 未成工事支出金 | 1,000,000 | A工事 完成振替 |
この振替で、資産だった原価が費用(完成工事原価)になります。同じ時期に計上する完成工事高(売上)と対応し、工事ごとの利益が正しく計算できます。売上側の処理は損益の勘定科目|損益計算書の科目一覧と仕訳もあわせてご覧ください。
未成工事支出金と紛らわしい建設業科目の違い

建設業会計には、名前が似た科目が並びます。「未成工事」と付く科目は、資産と負債で正反対の意味になるため、混同に注意が必要です。
| 科目 | 分類 | 内容 |
|---|---|---|
| 未成工事支出金 | 資産 | 完成前の工事にかかった原価(自社が支払った側) |
| 未成工事受入金 | 負債 | 完成前に発注者から受け取った前受金(もらった側) |
| 完成工事未収入金 | 資産 | 完成工事高のうち、まだ回収していない代金(売掛金相当) |
| 工事未払金 | 負債 | 材料費・外注費などの未払い分(買掛金相当) |
ポイントは、「支出金」は資産・「受入金」は負債という向きです。自社が支払った原価は資産(未成工事支出金)、発注者から先にもらったお金は負債(未成工事受入金)になります。
未成工事受入金は、一般会計の前受金にあたります。前受金・前払金の考え方は前払金の勘定科目と仕訳|前払費用・前渡金との違いで整理しています。
未成工事支出金の消費税と決算での表示
消費税の区分は、タイミングで分けて考えるとわかりやすくなります。
原価を支払うとき(材料の購入・外注費の支払いなど)は、その内容に応じて課税仕入れとして処理します。未成工事支出金に集計した時点で、仮払消費税を計上する会計ソフトが一般的です。
一方、完成時に未成工事支出金を完成工事原価へ振り替える仕訳は、社内での勘定の付け替えにすぎません。ここでは消費税は動かず、不課税(対象外)です。
決算での表示は、貸借対照表の流動資産(棚卸資産)に、期末時点の未成工事支出金の残高を計上します。まだ完成していない工事の原価が、資産として次期へ繰り越されるイメージです。
なお、上場企業など会計監査を受ける会社は、2021年4月以降に始まる事業年度から「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号・2018年公表)が強制適用され、進捗度に応じて原価を費用化します(参考: 企業会計基準委員会)。中小企業は、従来どおり完成時にまとめて振り替える方法も認められています。
よくある間違いと注意点
実務で見かける誤りを整理します。いずれも工事ごとの損益や決算に直結するため、先に押さえておくと安心です。
- 工事中の原価を、すぐ「完成工事原価(費用)」で処理してしまう
- 販売費及び一般管理費まで未成工事支出金に含めてしまう
- 未成工事支出金(資産)と未成工事受入金(負債)を取り違える
- 完成しているのに、完成工事原価への振替を忘れる
間違い1:工事中の原価をすぐ費用にしてしまう
工事中の材料費・外注費を、その都度「完成工事原価」で費用計上すると、売上が立つ前に費用が先行します。工事中は必ず「未成工事支出金」で資産計上してください。
間違い2:販管費まで含めてしまう
本社家賃・営業担当者の給与などの販売費及び一般管理費は、工事原価ではありません。未成工事支出金に含めず、通常の費用科目で処理します。
間違い3:資産と負債を取り違える
「未成工事支出金」と「未成工事受入金」は名前が似ていますが、前者は資産、後者は負債です。支払った側か・もらった側かで判断してください。
間違い4:完成後の振替を忘れる
引き渡しが済んでいるのに未成工事支出金に残高が残っていると、費用が計上されず利益が過大になります。完成・引渡しのつど、完成工事原価への振替を行いましょう。判断に迷う場合は、顧問税理士に確認するのが安全です。
よくある質問
未成工事支出金でつまずきやすい5問を整理します。
Q1:未成工事支出金は費用ですか、資産ですか?
資産(棚卸資産)です。完成前の工事にかかった原価を集計しておく箱で、費用ではありません。工事が完成・引き渡された時点で、初めて「完成工事原価」という費用へ振り替えます。
Q2:未成工事支出金は一般会計のどの科目に相当しますか?
「仕掛品」に相当します。製造業でまだ完成していない製品の原価を集計する仕掛品と、考え方はまったく同じです。建設業では法定の財務諸表様式に合わせて「未成工事支出金」という名称を使います。
Q3:未成工事支出金にはどんな費用を集計しますか?
材料費・労務費・外注費・経費の4つ、つまり工事現場でかかる工事原価を集計します。本社家賃や営業社員の給与などの販売費及び一般管理費は含めません。
Q4:未成工事支出金と未成工事受入金は何が違いますか?
分類が正反対です。未成工事支出金は自社が支払った原価で資産、未成工事受入金は発注者から前受けしたお金で負債です。「支出金=資産・受入金=負債」と覚えると混同しません。
Q5:消費税はどのタイミングで処理しますか?
原価を支払うときに、その内容に応じて課税仕入れとして処理します。完成時に未成工事支出金を完成工事原価へ振り替える仕訳は、勘定の付け替えなので不課税(対象外)です。
まとめ:未成工事支出金は「工事中の原価をためる資産」
最後に、未成工事支出金の勘定科目のポイントを整理します。
- 未成工事支出金は建設業の棚卸資産(資産)で、一般会計の「仕掛品」に相当する
- 集計するのは材料費・労務費・外注費・経費の工事原価(販管費は含めない)
- 工事の完成・引渡し時に、全額を「完成工事原価」へ振り替える
- 未成工事支出金(資産)と未成工事受入金(負債)は正反対なので取り違えない
- 消費税は原価の支払時に課税仕入れ、振替時は不課税
未成工事支出金は、「工事中の原価をいったんためておく資産」と考えると迷いません。完成のたびに完成工事原価へ振り替えることで、工事ごとの利益が正しく計算できます。長期の工事や進行基準を採用する場合など、判断に迷うケースでは、最新の会計基準を確認のうえ税理士に相談すると確実です。
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免責事項
※本記事は2026年時点の公開情報をもとに勘定科目の一般的な考え方を整理したものです。会計基準・建設業会計の取扱いは改正や適用範囲(上場企業・中小企業)により異なります。個別の会計処理・税務判断は、最新の国土交通省・企業会計基準委員会・国税庁の公式情報をご確認のうえ、税理士など有資格者にご相談ください。
